グローバルプレーヤー目指し基盤整備

グローバルプレーヤー目指し基盤整備

西村あさひ法律事務所
執行パートナー
保坂 雅樹 氏


聞き手 編集局長 島田一

――事務所は今年で創立50周年を迎える…。


保坂 当事務所は、前身の3つの事務所が順次統合して2007年に現在の姿となったが、いずれの事務所も、その時々の経済状況や、法律業務へのニーズに応じて、成長発展してきた。私は、前身の一つである西村総合法律事務所に1989年に入所した。その後四半世紀が経過したが、その間の経済状況や法律業務へのニーズにも様々な変化があった。私の入所直後に日本のバブル経済が崩壊し、その後失われた10年、20年と言われた状況となった。経済状況と法律業務へのニーズは必ずしも一致するものではない。景気悪化により増加する法律業務へのニーズの典型的なものとしては倒産案件がある。従来、法的な倒産手続きで管財人に任命されるのは、裁判所が管財人候補としてリストしていた倒産専門の弁護士であったが、バブル崩壊による景気悪化により管財事件が急増し、管財人候補リストの弁護士が不足するという状況となった。倒産を専門としていた、ときわ事務所(前身の事務所の一つ)は当然に多忙を極めていたと思うが、国際的なファクターが重要な倒産案件においては、裁判所から、西村事務所のような国際的な法務を扱う渉外法律事務所の弁護士にも大規模な倒産事件の管財人の依頼が舞い込むようになった。実際、私自身も海外の大口債権者が絡むかなり大規模な管財事件を手がけた。また、この間に、私の専門であるM&A関連の案件が急激に増加した。この時期、企業のM&Aニーズに応じて、会社法、証券取引法(現在の金融商品取引法)、独占禁止法、税法などのM&A関連法制が、順次整えられたという背景が非常に大きかったと思っている。

――今や日本最大の法律事務所だ…。


保坂 その時期、ビジネス法務分野を取り扱う法律事務所への人数需要が急速に高まった。M&Aでは、大規模化や複雑化に伴い取引の諸段階で多くの弁護士が必要となるが、特に対象企業に対する調査・評価(デューディリジェンス)について法律的な観点から非常に多くの弁護士が必要となった。また、M&Aだけでなく、証券化や流動化など新しいファイナンス手法が急速に発展するなど、大規模な国内案件が大幅に増加し、弁護士の需要増加の主要因となった。近時では、アウトバウンドのクロスボーダー案件、危機管理や紛争案件の増加といった側面からの弁護士需要増加を強く感じている。現在は所属弁護士が500名超と国内最多となっており、私の入所当時の西村事務所と比べれば10倍を超える増加となっている。一方、クライアント企業に対し最良のサービスを提供するべく、弁護士からサポートスタッフまで非常に質の高い関与が求められている。このため、できるだけ多くの優秀な人材を確保するよう採用には非常に力を入れている。

――国内最多の人数規模を維持するためには…。


保坂 法務需要への対応、事務所の成長に必要な人材を維持するという考えに基づいており、国内最多の人数規模を維持すること自体は目的たり得ない。法律事務所が急成長した時期には、法律事務所同士の統合による規模の拡大もあった。このなかで、当事務所は、04年の西村総合法律事務所とときわ総合法律事務所の統合、更に07年7月に西村ときわ法律事務所とあさひ法律事務所国際部門が統合したが、以降、国内での人数順位では他の事務所とは大きな差ができている。日本での大規模な事務所同士の統合は一巡し、当面は人数順位が変わることはないように思う。弁護士というプロフェッショナルの集団同士が有効な統合を果たすというのはそんなに簡単なことではない。分野、チーム、人員が一体となってシナジー効果を出さなければならず、これは単に2つの事務所が同一名称のもと一つの事務所になったというだけでは実現することはできない。より質の高い法的サービスを提供できるようになるには、相互の相性や信頼関係に加え、組織運営の理念や仕組み、ノウハウなどの共有が必要で、これらは容易ではなく、また大変に時間もかかる。

――質の点で国内一の事務所との評価を得るには…。


保坂 この事務所に依頼すれば最善の法的サービスを提供してもらえると言われるよう、クライアントのニーズに対し常に先を見て臨むことが重要となる。また、そのニーズは様々だが、例えば、日本企業による海外展開のサポートが挙げられる。渉外法律事務所の仕事は元々、海外企業が日本に進出する際に日本法のサービスを提供するインバウンド業務が主流だった。だが、現在は日本企業による海外企業の買収など、海外に出て行く日本企業をサポートするアウトバウンド業務の増加が大きな流れとなっている。アウトバウンド業務は基本的には外国法に関するサービスとなるため、日本法のサービス提供力を本領として発揮してきた日本の法律事務所が、海外事務所と単純に同じ土俵で競合するのは容易ではない。特に、世界中に拠点網を構築し現地法のサービスを提供する態勢の国際的な海外事務所は非常に強力な存在だ。

――海外展開の現状は…。


保坂 当事務所の最初の海外事務所である北京事務所の開設は2010年で、日本の法律事務所の中国進出としては後発組だが、その後、東南アジア諸国への拠点開設は非常に積極的に行ってきた。現在9つの海外拠点がある。日本企業の現地進出が進む東南アジアでは、日本の法律事務所によるアドバイスにニーズがあるという確信から展開した。これもアウトバウンド業務となるが、日本の法律事務所だからこそ日本企業の文化を熟知している点で強みがあり、日本企業がこの地域で本当に必要とする質とスピードのサービスは、当事務所のような日本の法律事務所が現地に拠点を設けてこそ提供できるのではないかと判断した。ただし、国によっては、海外の法律事務所は事務所を開設できないなど、外国弁護士による活動についての規制が厳しいところもあり課題となっている。東南アジアからは外れるがインドなども外国弁護士への規制が厳しい。この他、当事務所は、国内でも名古屋、大阪、福岡にそれぞれ拠点を設けている。これも、今後高まっていくであろう同地域からアジアに進出する日本企業の需要などに応えることが大きな目的だ。高い専門性を持つ相談先として認知されれば、自ずと依頼も増えると考えている。この点、海外・国内展開は別物ではなく、連続性のある取り組みと考えている。

――次の50年の展開は…。


保坂 世界中で活躍する海外の法律事務所があまた存在するなか、真のグローバルプレーヤーの一員として認知されこれを確立していくことを目指す。それは事務所自体の国際的な認知度を上げるというだけでなく、例えばM&Aや倒産など個々の分野あるいは個々の弁護士レベルで国際的に高い認知と評価を得ていかなくてはならない。今年の事務所の年頭会合では、弁護士個人なり個々の分野で真のグローバルプレーヤーになるための組織基盤を整備するよう注力することを掲げた。国際的な諸要素を包含する案件において、より一層迅速で統一的な対応ができるよう取り組んでいく。このため、採用活動でも、そのような素養を持った人材、また日本以外の法的資格を持つ人材が所属しやすいような工夫も推し進めてきている。ただ、日本発の事務所であること、日本の企業文化に根ざした貢献をしていくことは、大切にしていきたい。この点、当事務所は、これまで海外事務所を買収する、あるいは海外事務所と統合をするという形での拠点展開はしていない。現地法の規制の観点からの提携という形態を除き、事務所の開設、現地の弁護士採用を自ら行う自前主義を貫いてきている。日本の法律事務所同士の統合さえ難しい。海外事務所を買収し、あるいは海外事務所と統合して、なお自分達の理念や、サービスの質を維持向上させることは、少なくとも現時点においては、非常に難しいだろうと思っている。

――業界全体の課題は…。


保坂 学生の法学部離れなどと言われているなか、法律業務や法律業界そのものの魅力を社会に伝え、より多くの優秀な人材が参画したいと思う業界にしたい。法律的な素養を備えた人材が日本社会の適材適所に配置され将来を担っていくような業界づくりが必要だと思う。当事務所で手がけるようなビジネス法務の世界に人材が集まるだけでなく、本来、法律的な素養というのはどの世界においても重要な基盤のひとつであるはずだ。このため、当事務所の成功のみならず、当事務所の業務経験を持つ人達が、より広く社会で役立つよう、人材の後背地となるといった視点も更に強く持っていきたいと思っている。