まずは財政出動がポイント

まずは財政出動がポイント

衆議院議員
岡本 三成 氏


聞き手 編集局長 島田一

――10~12月期のGDPがマイナスとなり、アベノミクスも終わりとの声もある…。


岡本 私は全くそう思っていない。景気を良くしていくうえでは、雇用者数を増やし、失業率を下げていくことが最も重要だ。その意味では、絶対的な就労人口は増えてきており、有効求人倍率は安倍政権発足時の0.8倍から現在は1.3倍まで上昇し、逆に失業率は4.3%から3.2%へと低下している。正社員の給与は企業が雇用関係のなかで作為的に決める面があるが、労働需給はタイト化してきており、まず非正規職員の給与が非常に高い伸びを示してきている。もう少し労働需給がひっ迫してくると、賃金が着実急激に伸びる素地は整ってきた。アベノミクスの成果が賃金や消費に跳ね返るタイミングが想定よりも後ズレしたことは否めないが、アベノミクスの方向性自体は間違っていない。「景気が悪い」と主張している人は株価の下落を理由に挙げているが、1万6000円という水準は安倍政権の発足時と比べてもなお2倍の水準であり、むしろ2万円に達するスピードが早すぎたと考えるべきだろう。

――賃金は遅行指数とはいえ、実質賃金は4年連続で低下している…。


岡本 実質賃金や1人当たりの平均賃金は、日本のような成熟先進国では、もはや経済政策の指標としては適切ではないと考えている。国民の労働参加率は上昇しており、例えばこれまでは60歳で定年を迎え引退していた人達が嘱託で再雇用され、給与は半分になるが非正規で働くケースが増えてきている。また、今まで専業主婦だった人がパートに出て働くようになると、1人当たりの平均賃金は低下するが、家計の総所得は増えることになる。この点、家計の総所得は過去20年間にわたり減少の一途を辿ってきたが、最近になりようやく増加に転じてきた。実質的な肌感覚で家計が豊かになったかどうかは家計の総所得で判断すべきであり、1人当たりの平均賃金で物事を考えるとミスリードになると考えている。

――アベノミクスの恩恵が国民に行き渡っていないとの批判については…。


岡本 「景気が良い」ということを雑な言葉に直すと「金回りが良い」ということであり、お金を持っている人が使ってくれるような状況を作ることが重要だ。マクロで見ると日本で豊富にお金を持っているセクターは2つあり、高齢者の貯蓄と企業の内部留保だ。そこで、高齢者政策として、子供の住宅資金や孫の教育資金を贈与すると一定金額までは非課税になる制度を創設した。金持ち優遇との批判もあるが、お金が働く人に行き渡るのは素晴らしいことだ。また、企業が抱えている内部留保を活用するよう促していくことも必要だが、これもうまくいきつつある。企業の自社株買いは過去最高のペースとなっており、企業のお金がまず投資家に回り、そこからさらに再投資へと回っている。さらに企業に対する設備投資減税も導入した。これも大企業優遇との批判があるが、お金を使うインセンティブを与えなければ企業は現預金を抱えたままになってしまう。設備投資を行う場合はほとんどのケースで、国内の中小企業から機械を購入するわけで、お金を使いやすくするような制度・法律を作ることは国の大事な仕事だ。

――日銀のマイナス金利政策導入に対する評価は…。


岡本 マイナス金利の導入については、どんなに経済・市場環境が悪くなっても日銀としてはデフレ脱却と緩やかなインフレの形成にコミットし続けるという強いメッセージを送ったと理解している。使える武器は小出しにせず、必要に応じて全て使い切るという姿勢を示したという意味においては大いに評価できる。また、マイナス金利で一番損をするのは銀行に多くのお金を預けているお金持ちであり、逆に住宅ローンを借りる若者世代など消費性向の高い人たちは低金利による恩恵を受けることになる。マイナス金利は長期間にわたって続けられる政策ではなく、どこかの時点で転換は必要になるが、お金を持っている人と持っていない人の格差の広がりを考えると、資金移転を促すマイナス金利政策は、ある程度機能するのではないかと見ている。

――日銀の大規模緩和によって国債市場の流動性は低下している…。


岡本 金融市場では新発10年国債利回りまでマイナスとなっているが、金融市場で重要なことは価格ではなく、流動性が維持されているかどうかだ。国債市場で流動性が若干低下しているという事実は否めないが、日本は他国と比較してもともと現物債の流動性が低いという特徴がある。これはJGBの銘柄数が多すぎることが原因だと考えている。米国や欧州の場合は1銘柄の追加発行を重ねることで流動性を高めているが、JGBの銘柄数は欧米の数倍はあるのではないか。日銀による大量の国債買入を受け以前と比較して流動性は低くなってはいるが、日本も指標銘柄の規模をもっと大きくするなど、流動性を高めていくための工夫の余地はあると考えている。

――国内景気を回復軌道に乗せるためにはどうすればよいか…。


岡本 大きな目的を政府と国民が共有することが重要だ。例えば、池田内閣の「所得倍増計画」はシンプルでわかりやすく、努力して働くことが自分自身の生活の向上につながるというメッセージが国民の間で共有されていた。「デフレからの脱却」はもちろん重要だが、多くの国民にとってはデフレ脱却が自らにどのような利益をもたらすかがわかりにくいのではないか。例えば、「物価の上昇以上に給料を上昇させる」など、誰にとってもわかりやすいミッションステートメントを打ち出し、皆で共有すべきだ。

――GDPの拡大に向けた具体的な施策は…。


岡本 GDPを大きくする方法は2つあり、まずは政府による財政出動がポイントになる。景気が悪いという状況は民間がお金を使っていないということであり、こんな時に公的セクターまでもがお金を使わなければますます物は売れず、給与は下がり、雇用環境は悪化していく。景気が悪いときには政府は必要な財政出動を行い、逆に民間がお金を使い出したら政府支出をなるべく抑えることが必要になる。この際、財政出動を行うとはいえ無駄なハコモノを作ることは厳に慎まねばならず、メンテナンスを中心としたインフラ整備を進めるべきだと考えている。日本は以前では考えつかないほど異常な気象状況の中に置かれており、例えば集中豪雨に対応するために下水道のパイプ幅を大きくするなど人の命を守るためにすべき対策は山ほどある。これでは建設業にしかお金が回らないではないかという指摘もあろうが、ITや教育など国民から納得が得られる分野についても、もっと投資を増やすべきだ。また、若者世代は将来への漠然とした不安感から支出を増やすことに慎重となっており、こうした世代を応援するために、例えば中間層の所得税を軽減することも一策ではないか。

――このほかに有効な手立てはあるか…。


岡本 日本では労働人口の減少を背景に移民政策が議題にのぼってきているが、私は労働政策の観点で移民を受け入れることは時期尚早だと考えている。移民受け入れにより一時的にGDPのパイは増えようが、同時に社会保障費増大等の問題も発生するためだ。そこで私は、観光立国を目指し、政策を強力に推し進めることを訴えたい。仮に毎日おしなべて100万人の観光客が日本に来て消費活動をしてくれると、これは消費人口が100万人増えるということに等しく、しかもお金だけを落としてくれて社会保障のコストを払う必要もない。これは日本のGDPを拡大させるうえで非常に効果的だ。国連世界観光機構によると、世界の観光産業は全世界のGDPの9%を占めている。これを日本に置き換えると、コストゼロで新たに50兆円の消費が生まれることになる。さらに、国際観光産業は世界全体でパイが広がっている成長産業であり、国際観光客数は2013年には全世界で11億人程度だったが、2030年には20億人にも増加すると予想されている。観光産業は、日本のGDP拡大にとってのキーポイントだ。現在は訪日客数を年間3000万人まで増やすことを目標としているが、むしろ訪日客にどれだけのお金を使ってもらえるかという消費金額の目標を設定するべきだと考えている。