Fintech行政の恒久化を

Fintech行政の恒久化を

マネーフォワード取締役
Fintech研究所長
瀧 俊雄 氏




聞き手 編集局長 島田一

――Fintechはどのような力を秘めているか…。


 Fintechは物事を「可視化する」という点において非常に強い力を持っている。例えば、自らの資産の全体像を把握している個人は少なく、来年に子供が生まれて多額のお金が必要になるにも関わらず、資産運用で高いリスクを取っていたりする。この状況を改善するにはどうすればよいかというと、まずはFintechによる可視化で資産の全体像を把握したうえで、適切なアセットアロケーションへと誘導するなど、家計の総合診断スコアを上昇させることが有効となる。また、人生のうちお金に関する問題のほとんどは所得を増やす、支出を減らす、あるいは資産運用で増やすという3つの選択肢のいずれかで解決するが、お金にまつわる悩みを抱えている個人は多い。Fintechはお金の悩みを解決するうえで大きな役割を果たすことができるツールであり、これにより各個人がもっと大事な人生のテーマに向き合う時間を作ることができるようになるだろう。

――日本におけるFintechサービスの現状は…。


 国内では現在、小さな会社を含めて100社程度のFintech企業があると言われているが、そこそこのスケールに達しているのはだいたい30社~40社程度だ。ただ、動きは緩やかではありながらも、Fintechを巡る状況は着実に変化しているという感触がある。

――金融当局もFintechに注目している…。


 Fintechの発展に向けてチャレンジすることは日本の金融界にとって非常に重要だが、国内のプレイヤーが個人情報保護法や各業法に丁寧に従ってFintechのサービスを展開しようとする間に、海外勢が一気に参入して業界基準を奪ってしまう可能性があると考えている。海外発のサービスが日本を豊かにしてくれるのは良いことだが、日本が抱える独自の問題を解決するには日本国内のプレイヤーの育成は急務であり、データの利活用等について規制をより柔軟にすることが求められている。また、現状ではテクノロジーがもたらす新サービスの開発に向けて試行錯誤を行うため規制体系には必ずしもなっていない中、現在の制度自体のリスク許容度を高めていく仕組みが必要だ。

――Fintechの進化により、銀行が役割を奪われる可能性は…。


 その答えは銀行の役割を「情報サービス業」と定義するか、あるいは「金融インフラ業」と定義するかで変わってくる。住宅ローンを例に取ると、相手を見て与信判断を行うのは情報サービス業の分野であり、実際にローンを組成して口座に振り込み、ALMを行うのが金融インフラ業の分野だ。決済を含めて金融インフラ機能はコモディティ化していく傾向が強いため、銀行がこれを自らの仕事だと定義するならば銀行はいずれ消滅していくだろう。ただ、国民の多くは金融のことを十分に理解しているとは言えず、金融商品の提案をはじめとする情報サービスの分野は残り続けると考えている。また、人工知能よりも生身の人間に説明してほしいと思われるニーズも相応にあるため、有益な情報や顧客理解に基づく高度な専門性を提供し続ける限り、銀行員という職業は必要とされるだろう。

――貴社が手掛けているFintechサービスについては…。


 政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを長らく掲げてきたが、これを実現するためには各個人が自分のリスク許容度や将来どのくらいのお金が必要になるかを理解したうえで「きちんと資産運用をしなければいけない」という問題意識を持つことこそが重要だ。そのためには自らの資産を把握・管理するためのツールが必要となるが、まずはその上流となる意思決定を助ける家計簿を作っていこうという思いで会社を立ち上げた。我々のサービスではインターネットバンキングやオンライン証券の口座と連携して全自動で家計簿を作ることができるほか、レシートを撮影すると内容を解読して記録を残す機能もある。サービス開始からまもなく3年半となるが、利用者ー数は350万人にのぼっている。家計簿作成サービスは基本的に無料で使って頂けるが、広告を非表示にしたり、1年以上前のデータを見たりするためには月額500円の有料制としている。

――資産の把握から投資に促すための仕組みは…。


 米国のFintechサービスでは家計簿から直接ETFが購入できるようなツールもある。ただ、同社は同国で証券会社としての登録を受けている。日本でも、同じサービスを行おうとすれば第一種金融商品取引業への登録が必要だが、当然ながらは設備や組織面の整備が求められる。このため、本来は「こういう金融商品を買うべきだ」という提案をした方が効果的なのかもしれないが、現時点では金融商品の紹介など法律の許される範囲内のことにとどめている。また、広告事業のひとつとして金融機関と連携して口座開設のアフィリエイトを行っており、紹介料を頂いている。

――貴社のビジネスモデルの強みとは…。


 「データの自動取得」という点に強みがあり、我々は国内でトップレベルの性能を持つ口座情報の集約エンジンを持っている。また、個人向けサービスに加え、もう1つの柱としてビジネスの家計簿である中小企業・個人事業主向けのクラウド型の会計、給与、請求書作成、経費精算、マイナンバー管理ソフトも提供している。日本には数十の会計ソフトが存在しているが、このうちクラウドベースのものはまだ少ない。クラウドを活用するメリットの1つとしては、東日本大震災の際に起こったようなデータ消失の恐れが減ることが挙げられる。また、通常の会計ソフトでは複数のパソコンで同じ画面を同時に見ることができないがクラウドではこれが可能となり、税理士と企業の担当者がリアルタイムのデータを共有することができる。また、我々のソフトを使えば毎月繰り返されるような取引はコンピューターが自動で入力を補助するため、手間の掛かる手入力作業は従来の5分の1程度に減り、税理士はその分の時間を企業の財務コンサルティングなどの本業に充てることができるようになるなど、利便性が相当に向上する。

――Fintechのさらなる発展に向け、当局に今後求める点は…。


 1年前に比べると、我々の要望はかなり叶ってきている。例えば金融庁には新たなアイデアの法律上の扱いを気軽に相談できるようになったほか、提言を行ううえでもFintech推進議員連盟や自民党の金融調査会など様々なチャネルが存在している。ただ、Fintech専門の部署が金融庁にあるかというと、現在はまだ相談専門の窓口があるのみだ。シンガポールや英国の金融当局にはFintech専門の部署があり、金融庁にも予算措置によってFintechを専門とする部署を恒久的に設置することが望まれる。きちんと未来に向けたリソースを確保すれば、日本のFintechサービスは今後とも一定のペースで成長し、新たな付加価値を生み出していけると考えている。