住宅ローン依存を変革

住宅ローン依存を変革

労働金庫連合会
理事長
中江 公人 氏




聞き手 編集局長 島田一

――労働金庫のそもそもの成り立ちは…。


中江 労働金庫は1950年に設立され、65年以上の歴史を有している。戦後間もない頃は勤労者の社会的信用が低く、生活資金の借入れは専ら高利貸しに頼らざるを得なかったため、この状況を改めようと勤労者の手によって作られた勤労者のための金融機関だ。当初は岡山県と兵庫県において設立され、その後全国47都道府県すべてに1つずつ労働金庫ができた。現在は統合・再編により全国に13の労働金庫があり、その中央金融機関として労働金庫連合会が置かれている。

――現在の事業規模はどのくらいか…。


中江 13労働金庫は全国に640支店を持っており、従業員数は合計で1万1,000人程度だ。預金残高は合計19兆円近くにのぼり、このうち約12兆円が貸出に回っている。余資の多くは労働金庫連合会が預かり、運用の果実を配当として各労働金庫に還元している。他の協同組織金融機関と同じく、営利を目的としない金融機関である。約12兆円の貸出金のうち住宅ローンが9割近くを占めている。歴史的な超低金利環境において、各労働金庫とも収益環境は厳しさを増しているが、特に住宅ローン分野は地域金融機関との競合が激化しており、住宅ローンに依存したビジネスモデルの変革を迫られている。

――今後の事業運営の方針は…。


中江 勤労者のうち非正規雇用者の割合が4割に達した。また、非正規雇用者のうち女性が7割近くも占めている。このような雇用形態の変化に伴い、勤労者の求める金融ニーズも多様化している。労金はこうした「変化と多様性」に敏感に反応し、迅速に対応していかなければならない。2014年9月に策定した「ろうきんビジョン」では、2015年度以降の10年間を見据えた新しい労働金庫の道筋を示した。ビジョンでは、まずは「勤労者のための金融機関」という原則に立ち返り、労働金庫らしさを追求していくことを基本方針に置いている。具体的には、勤労者の生活を生涯にわたってサポートしていくこと、すなわち、勤労者との生涯取引の推進を大きな柱として掲げている。住宅ローンに関していえば、単に金利だけを競い合うのではなく、中古住宅購入費用とリフォーム・リノベーション費用を一体化した融資商品の開発を行うなど、金利以外の付加価値をいかに高めていくかが重要だ。

――生涯取引の推進とは具体的にどのようなことか…。


中江 結婚・子育てや教育、介護、退職など勤労者のライフステージに応じた良質な商品・サービスを提供していくということだ。そのために、多様な商品・サービスのラインアップを充実し、「住宅ローンに強い」という特徴は活かしつつ、他のカードローンや自動車・教育ローン、投信、保険の販売といった複合的な取引へと発展させることが労金自体にとっても収益源の多様化、住宅ローンに依存したビジネスモデルの脱却にもつながっていく。特にシニアライフを支えていくため、退職後の資産管理・活用のお手伝いに力を入れていこうと考えている。この点、すでに2006年には全国の労働金庫で「企業年金の役割発揮宣言」を打ち出しており、企業年金分野においての取り組みは進展している。特に、確定拠出年金の運用商品の1つとして提供している「ろうきん確定拠出年金定期預金」の残高は5,000億円超と単一の元本保証型商品としては金融界でトップの残高を誇っており、さらに残高を7,000億円程度まで増やすことを目標としている。また、確定拠出年金法の改正により個人型確定拠出年金の対象が公務員や主婦にも広がったため、幅広い層に対して年金資産の形成を支援していく方針だ。

――利用者層の拡大に向けての方策は…。


中江 若い会員組合員の間では労働金庫が自分たちの金融機関であるという意識が薄くなっている面があり、口座を持っている人でもメインバンクではなくサブバンク的な使い方をするケースもあるようだ。そこで、例えば給与の振り込み口座にしてもらう、あるいは公共料金の引き落としに使ってもらうことなど、既存の利用者との関係を深掘りしていきたい。2016年3月にはコンビニエンスストアとの提携を拡大し、ほとんど全てのコンビニエンスストアのATMにおいて、24時間365日・実質手数料ゼロで預金の引き出しができるようになった。顧客の利便性が一層向上すると期待している。また、会員労働組合とともに、預金や貸出の普及活動を行うという。他業種にはない効率的かつ安定的な仕組みを持っていることは労働金庫の強みではあるが、これに安住していると個々の利用者へのアプローチが弱くなってしまう面がある。このいわゆる「団体主義」の強みは活かしつつ、今後は若年層の取り込みなどを念頭に置いたインターネットバンキングの強化や、投資信託のネット販売などにも取り組んでいく。

――このほか、直近の取り組みとしては…。


中江 労働金庫には現在約1,000万人の利用者がいるが、労働金庫は全ての勤労者にとって最も身近で信頼される金融機関でなければならない。そのためには、勤労者全体のうち4割を占めている非正規雇用者や、労働組合が組織されていない中小企業の雇用者の生活を支援することにより目を向けていく必要がある。そこで、非正規雇用者に対する小口の生活資金の融資や、中小企業勤労者に対して労金のトータルな商品・サービスを活用した福利厚生サービスの提案を行ったり、これらの層に対して財形貯蓄の利用を拡大することを進めたいと考えている。我々の社会的役割にも関わってくる重要な課題だと認識している。

――最後に、今後の抱負を…。


中江 勤労者のライフステージに寄り添って「より長く」、勤労者との関係を「より深く」、さらに新たな利用者の取り込みを通じて「より広く」、労働金庫との関わりを広げていきたいと考えている。また、最近は地域社会が抱えている課題を解決するにあたり、自らの「自助」、国・自治体による「公助」に加え、非営利の協同組織やNPO、社会福祉法人が担う「共助」の役割が大きくなってきている。こうしたなか、労働金庫もこれらの非営利の協同セクターとネットワークを形成し、その中核として金融機能を発揮することで社会的な役割を果たしていきたいと考えている。労働金庫は、単に量的拡大を図るのではなく、顧客に対する商品・サービスはもとより、顧客対応や人材等の面においてもより質の高い金融機関を目指していきたいと考えている。