追加緩和は市場との対話重要

追加緩和は市場との対話重要

国際金融情報センター
理事長
加藤 隆俊 氏


聞き手 編集局長 島田一

――為替市場では、再び円高傾向が強まってきている…。


加藤 英国のEU離脱騒動により欧州全体のリスクが拡大しており、日本としては安全通貨としての円買い需要の勢いが収束に向かってくれることを期待するしかない。日本政府が現状で取れる円高対策としては、マーケットに対して絶えずメッセージを発信していくということに尽きるのではないか。

――円高を阻止するため、日銀がマイナス金利幅を拡大すべきとの意見もある…。


加藤 日銀のマイナス金利政策に対してはすでに金融機関から不満の声も上がっており、金融緩和を一段と強化した場合の副作用も考慮しなければならない。また、日銀が1月29日にマイナス金利の導入を決定した後はむしろ円高傾向が強まってしまったこともあり、マイナス金利幅の拡大が為替相場にどのような影響を与えるのかを慎重に見極める必要がある。加えて、サプライズという形ではなくマーケットと十分に対話をしながら追加緩和をしていくことが重要になっている。

――英国のEU離脱の影響については…。


加藤 国民投票によって意思表示がなされたわけであり、英国の政治当局としては国民の意思を尊重し、時期は不確定ながらもEUとの離脱交渉を進めざるを得ない。日本経済にとって足元では、安全資産としての円が買われ、かつ円高を嫌気して平均株価が下がるというマイナスの影響が現れてきている。金融機関を含め英国に拠点を置いている日本企業は相応に多く、ビジネスに与える影響も懸念されるが、この点については長期化が予想されるEU離脱交渉の動向を見極めていく必要がある。またマーケットでは、英国以外にもオランダ等のEU離脱がリスクとして意識されるようになっている。もちろんフランスやドイツは加盟国のEU離脱については体を張って阻止するだろうが、ユーロがドルや円にはないリスク要因を抱えていると見られがちになろう。

――英国は欧州諸国の中でAIIBへの参加を真っ先に決めたが、この点については…。


加藤 すでにAIIBへの加盟手続きを終えていることに加え、AIIBに対しては英国やドイツから副総裁を出しているので、欧州諸国が引き続きAIIBを支援していくという構図自体に変わりはないだろう。また、AIIBが資金難に陥るとの見方もあるが、AIIBの資本金は1000億ドル規模となる見通しで、このうち払込比率は約2割とアジア開発銀行(ADB)と比べても高水準だ。さらに、スタートアップ段階での融資規模は小さいため、しばらくは資金難に陥る可能性は低いと見ている。ただ、将来的にAIIBの事業が軌道に乗ってくれば、マーケットからの資金調達が必要になる。その際は格付け取得が必須となるため、組織運営の透明性や公平性が一段と求められることになる。また、当面はADBや世界銀行、欧州開発銀行との協調融資の案件が中心で審査もしっかりと行われるが、AIIBが独り立ちしたときにどのような審査が行われるかが次の問題だ。この点、AIIBは融資実行の意思決定を迅速化するとの方針を示しており、ADBも融資の申し込みから貸出までの期間を短縮するなどAIIBから刺激を受ける部分があろう。

――昨夏に続き、第2のチャイナショックが起こるとの懸念もあるが…。


加藤 BISの統計を見ても、中国の債務残高の対GDP比率は米国や欧州に比べ突出して高いというわけではない。ただ、日本の場合は債務残高の太宗を政府部門が占めているのに対し、中国はむしろ民間部門の債務が日本や他の先進国と比べて高い水準にある。不良債権残高が増加したとしても政府が必要に応じて資本注入を行うため、中国国内の大手金融機関が経営破たんに陥る可能性は低い。とはいえ、経済成長率の押し下げ要因としては働くため、中国政府が目標に掲げている6.5%~7%といった水準を達成するためには相当な努力を要するだろう。このため中国政府としては、経済成長率をてこ入れするためにも、あくまでなだらかなペースでの人民元安に誘導していくと見ている。中国の外貨準備高は月によって増減が変化しており、その辺は中央銀行がうまくコントロールしているのだろう。中国国内の3級都市・4級都市の中には半ばゴーストタウン化しているようなところもあると言われているが、北京や上海、深センでは農村からの人口流入により不動産価格が急騰している。中国国内でも都市によって景気が二極分化しているようだ。

――中国は領土拡大主義を取っており、近隣諸国は対応に苦慮している…。


加藤 内政事情を踏まえると、中国政府としても対外的に強硬姿勢を示すことで国民からの支持を集める狙いがあるのかもしれない。周辺諸国は中国への外交上の対応が難しくなっているが、やはり自国経済への影響を考えると中国と付き合わないわけにはいかない。当面はフィリピンで新たに発足したドゥテルテ政権が中国に対してどのような態度で接するかが注目されるが、例えば東南アジア諸国が反中国的な軍事同盟を組むということは、経済に与える悪影響への懸念から各国とも慎重にならざるを得ないと見ている。

――欧州に加え中国経済の先行きも厳しいとなると、米国の利上げの可能性は遠のくか…。


加藤 米国の国債利回りは直近、大幅な低下を示している。マーケットでは利上げの時期が相当遠のいたという風に見ているのかもしれない。リスク回避姿勢の高まりを映してドル高が進めば輸入物価が押し下げられることもあり、FRBが掲げている2%のインフレ目標への到達は難しいとの見方が強まってきている。

――今後、世界に対して日本が取るべき行動は…。


加藤 バングラデシュでは悲惨なテロ事件が発生した。このような事件は他の発展途上国でも十分に起こり得る。こうした意味で、日本もサイバー攻撃を含めテロリズムへの備えを強化していく必要がある。また、国際的にはドイツの経常収支の大幅黒字化が批判されているが、そのドイツは難民をかなりの規模で受け入れており、難民への教育や社会保障を含め財政的にかなりのコストをかけている。同じ経常黒字国として、日本も移民までいかずとも外国人労働者の受け入れを拡大することは世界に貢献する方策の一つであろう。日本の地方都市ではすでに人口が減少し始めているほか、労働需給もひっ迫してきており、働き手をたくさん集める必要がある。客観的に見ても日本は非常に生活しやすい国であり、日本で働きたいという外国人も潜在的には多いのではないだろうか。