フィンテック企業として昇華へ

フィンテック企業として昇華へ

カブドットコム証券
取締役 代表執行役社長
齋藤 正勝 氏


聞き手 編集局長 島田一

――フィンテックが広がりを見せているが…。


齋藤 15年以上前、私が就任した当時はIT出身の人材が証券会社のトップになることは異例だった。しかし、今、フィンテックという言葉が流行っていることを見ても、IT、システム系の人材が社長に就いていることに違和感がなくなっている。また、これまでにネット証券を取り巻く環境は認知度の高まりとともに大きく変わった印象を受ける。我々は初めから確信をもって望んでいたが、我々が想定した以上に個人投資家のお客様にとって、ネット証券の相当の地位が築けたと感じている。

――個人投資家における株式のネット取引のシェアがほとんどとなっている…。


齋藤 大手証券の個人顧客も株に関してはネット経由で取引していると見ればほぼ100%に近い。いわゆるネット専業証券だけでいえば約8割を占めている。ただ、預かり資産残高(株券の保有率)で換算するとネット専業証券は2割程度しかない。これは7割以上を対面証券の顧客が保有しているためだ。大手証券や地場証券も含め、顧客層はほぼ80歳台から若くとも70歳台。パソコンやスマートフォンに苦手意識がある世代であるため、こういった偏った数字が出てくる。とはいえ、中長期的には日本の消費や株式市場の主人公は50歳や60歳台の団塊の世代に移行していく。よくネット証券はシェアがすでに高く、将来性が無いと言われることがあるが、預かり資産残高を見れば、むしろこれからだと考えている。日本の場合、インサイダーなどの問題を考慮し、特に大企業に勤めている方は会社の方針として株式取引をしないよう制限されているが、今後、団塊の世代が退職し、株式取引を始められるようになる。従来の主役である投資家層とは異なり、これから新たに株式投資を始められる方々はネット証券を活用できる方々だ。そこに大きな商機があると考えている。

――ネット証券としての今後の発展性については…。


齋藤 各社いろんなことを考えていると思うが、当社としてはっきり言えることはまずグローバル化だ。MUFGは日本の金融機関として最もグローバル化で結果を残している。そのため金融ドメインに関してはまったく問題はなく、我々はその顧客基盤と金融ノウハウを活用できる立場にある。また、当社固有のビジネスとして最も可能性が大きいのがITだ。今年3月28日、兄弟会社である三菱UFJモルガン・スタンレー証券に29億円で株式のネット取引のシステムを提供した。ネット証券業界で唯一自前のシステムを保有しているからこそできるビジネスだ。当社はAIによるトレードディングやアナリストのシステム、自動コールセンターなど様々なソリューションを有するが、まずはそういったソリューションをMUFGやじぶん銀行などグループ内に提供していくなど、グループ内のフィンテック企業として稼ぐことができる。加えて、証券仲介業の強化も可能性のある新たな事業だと考えている。現在、銀行とともに証券仲介業を行っているが、従来、証券仲介業と言えば、銀行の窓口に行くと証券会社の看板があるといった対面仲介のイメージが強い。しかし、私が提唱している証券仲介業とは、システムのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース:プログラミングの際に使用できる命令や規約、関数などの集合のことを指す)を利用することでソフトウェアを一(いち)から開発するのではなく、もともとあるプログラムを呼び出して、その機能を組み込んだソフトウェアを開発する事が可能な技術を銀行に提供することだ。これが実現すれば銀行の画面を通して投資家が直接注文を出すことが可能となる。例えば、銀行の円預金や外貨預金、投信の積み立て画面からETFや株式を毎月1万円単位で購入することも可能となる。私の持論だが、金融と言うのは銀行がOS(基盤)。送金もクレジットカードも預金口座が無ければ作れない。このため、送金会社もクレジット業はミドルウェアでしかなく、その親和性が重要となる。また、大手証券や大手ネット証券が大きいと言われているが、所詮数百万口座しかない。大手銀行などでは数千万口座および数千万IDと桁が違う。つまり、証券の大衆化または株式のメジャー化を図るためには、銀行とネット証券の親和性が重要だと考えている。

――しかし、ネット証券の参入は少ない…。


齋藤 ネット証券がなぜ増えないのか。これは単純に参入障壁が高い点とクリアリングファーム(事務システム)にある。FXのシステムは数億円で誰でも世界一流のシステムが購入できるほか、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)業者も多いことからイニシャルコストゼロで誰でも始めることができる。そのため、過当競争に陥っている。一方、ネット証券および証券会社を始めようとする場合、大手対面証券グループなどに頼まなければシステムを構築することはできず、最低でも数十億円単位の費用を要する。このため、例えば地銀が証券子会社を作ろうと考えた場合、事業化調査段階で費用対効果を考え、実現は困難だった。しかし、我々の有するクリアリングファームというスターターキットを利用してもらうことで、証券子会社を作らなくとも証券仲介(API)でネット証券業が可能となる。今の時代、新たに証券会社を作る場合、窓口で販売するのが効果的なのかどうか。その点、大手証券グループが提供するシステムは営業マンありきの対面証券システムであることは強調しておきたい。また当社以外のほとんどのネット証券も大手証券グループが提供したシステムにて運営している。当社は独自のシステムを有し、三菱東京UFJ銀行との仲介の実績もあり、ノウハウもある。当社と組めば、どの地銀またはFX会社、さてはゲーム会社もネット証券を始める事ができる。当社はこういったBtoBtoCのビジネスモデルという、フィンテック会社としての道もある。もともとフィンテック企業であったことから、堂々とフィンテック企業として昇華していける。

――貯蓄から投資への主役はネット証券…。


齋藤 金融一体課税やマイナンバーを踏まえ、貯蓄から投資への主体は銀行窓販になると考えている。しかし、従来の銀行窓販ではなく、「銀行ネット株販売」が主体となって初めて「貯蓄から投資へ」が実現すると考える。そもそも株式は生もの。話している間に値が変わる。本質的に対面が向いているのか。投資信託やEBなどと異なり、株式は原資産。どの証券会社で購入しても同じだと消費者は分かっている。つまりコモディティ化している。コモディティ化しているため、通信販売、つまりネット証券が流行っている。かたや、投資信託がなぜネット証券で流行っていないのか。これは同じような商品でもわざと難しくするなどし、コモディティ化が進まないためだ。この点、フィデューシャリー・デューティーの精神としていかがなものかと金融庁も説いていることから、インデックスファンドであれば、どのファンドも同じにすべきなど、投資信託のコモディティ化も時間の問題となる。そのとき、消費者からは比較検討したいという要望が出てくる。その場合、もはや対面では限界に達しており、カタログ通信販売の世界、つまりネット投信販売の普及ももはや時間の問題となるだろう。投信だけでなく、金融商品全般がコモディティ化すべきであり、ネット取引の幅が広がると考えている。

――対面営業は必要ないと…。


齋藤 例えば、予備校や英会話教室は決められた時間や決められた講師に習うしかなかった。しかし、現代ではネット事業の普及とともに生徒が好きな時間に好きな先生を選ぶことが可能であるうえ安いなど、パフォーマンス重視となり、従来の予備校や英会話教室は減少しつつある。これと同じように本質的に対面営業は生き残れるとは思わない。そもそも支店という考えが好きではない。教育産業ですら生徒が先生を選べる時代なのに、大手の対面金融機関では投資家が営業マンを選べていない。例えば、鹿児島支店の顧客は鹿児島支店の営業マンとしか取引できず、東京の優秀な営業マンと取引することはない。本質的な投資家のニーズは医療でいうところのセカンドオピニオンだ。例えば、食べログと同じように評価が高い営業マンが推奨する商品ならば、購入してみようという流れを作ればいい。「金融は特別だ」という意識から脱却しなければならない。会社も商品もサービスも投資家が選ぶ時代だと認識しなおさなければならない。消費者目線で考えれば、現状の顧客が営業マンを選べないという対面営業は近く破たんすると見ている。また、そもそも営業マンが本質的に必要なのかどうかいった疑問も抱く。プロのアドバイスが必要だという話をよく聞くが、では今の営業マンは果たして投資のプロといえるのだろうか。今の営業マンが自身で株式を購入したことがあるのか。常にマーケットを見ているのか。ネット上で日本中にいる個人投資家に投資助言を求めるほうがよっぽどニーズがあると考えている。