日本の国際社会での孤立を防げ

日本の国際社会での孤立を防げ

元首相
東アジア共同体研究所 理事長
鳩山 友紀夫 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本の外交の現状をどうみるか…。


鳩山 私は基本的に全ての人間は仲良くしなければならないと思っている。現状の日本は、米国との仲が良くなりすぎていて、「米国さえ見ていれば日本の動きは分かる」状況だ。それどころか、米国の言い分を飲まないと日本の政治が上手く進まない場面もみられているが、これは明らかに行き過ぎた関係だろう。もう米国との関係を深めるのは十分で、今後はむしろ現状で円滑な関係を実現できていない国と友好を築くことが、日本の国際社会の中での孤立を防ぐために必要だろう。具体的には中国やロシア、韓国との関係改善が必要で、もし実現すれば、日本の未来がより豊かで明るいものになるばかりでなく、アジア全体の平和と安定に繋がると信じている。

――しかし中国は拡張主義的で周りの国との緊張を高めている…。


鳩山 そういう国だからこそ、いかに仲良くなるかを考えなければならない。ただ、多くの日本人は中国を誤解しているように思われる。これは、日本のマスディアが欧米寄りであるために、どんな時でも米国は正しいとされる一方で、中国やロシアは悪いと報じられる傾向があるためだ。例えば南シナ海問題は、実は文化大革命で中国が混乱していたころにフィリピンやベトナムが一帯の島を押さえていったことが発端だ。中国としては、せめて自分たちが確保している島々については拠点を建設し、万全な橋頭保にしたいと考えているだけだ。ただ、私個人としては軍事拠点と思われるような施設を作り、周辺国の警戒を招くのは中国自身のプラスにならないとは思っており、中国側にもそう進言している。

――日本の大新聞の報道は真実を伝えていないことが目立つ…。


鳩山 日本のマスメディアの報道ぶりでは、クリミア問題でも、ロシアが武力でウクライナを負かしたようにみえるが、一連の問題は元々米国がウクライナに介入し、親ロシア派の大統領を追放したことがきっかけだ。ソチオリンピックのタイミングを狙った動きにロシアは怒っただけだし、クリミアの併合についても、ロシア系が多くを占める住民の意思を尊重した結果に過ぎない。実際に私はクリミアを訪問したことがあるが、ロシア兵の姿は全く見かけず、非常に静かな雰囲気で、強制的に支配されているような様子はまるで見られなかった。ロシア側からも多少の介入はあったのだと思うが、それが決定的でなく、市民らがウクライナ政府によりウクライナ語を強制されたり、差別されたりすることを恐れたことが、圧倒的多数がロシアへの帰属を求めた理由だろう。

――アジアインフラ開発銀行については…。


鳩山 アジアインフラ開発銀行に参加してない主要国は米国と日本だけで、米国と近しい関係にあるカナダでさえ参加を表明した。これは国際社会が中国を受け入れている証拠だ。中国に対抗するために無理にアジアインフラ開発銀行から距離をおけば、却って日本が孤立することにも繋がりかねない。日本はアジア諸国と連携して中国を包囲しようとしているが、私としては、基本的には領土問題は2国間で話し合うべきで、他国が口を挟むものではないと考えている。南シナ海の問題でも、日米が介入すれば、逆に中国は態度を硬化させるだろう。外部に判断を仰ぐ際にも、両国が合意したうえで国際司法裁判所で争うべきだ。

――中国は常設仲裁裁判所の判断を無視した…。


鳩山 確かに常設仲裁裁判所の判断も勿論重視しないといけないが、それが強制力を持っている枠組みになっていない以上、最終的な解決に繋がらないのはやむをえない部分がある。常設仲裁裁判所の裁判官のうち、4名は当時国際海洋裁判所の所長だった日本人の柳井氏が指名していたが、もし尖閣諸島を巡って同じような状況で中国側に有利な判決がでたら、日本はそれに素直に従うことができるだろうか。やはり領土問題は仲裁裁判で結論がでるものではなく、両国が話し合い、判決に従うことで合意することが必要だ。話し合いで本当に解決するのかという批判もあろうが、例えば南シナ海を巡る問題では、中国はASEAN諸国と法的拘束力を持つ行動規範の策定に向けて着実に議論を進めている。日本としては冷静にそうした議論の成り行きを観察し、もし中国が話し合いを放棄した場合には批判するべきだが、解決に向かって努力を行っている限りは口を挟むべきではない。

――尖閣諸島については…。


鳩山 南シナ海を巡る問題と同じように、時間をかけて対話を行い、法的拘束力のある規範を形成していくべきだろう。これまで日本は領土問題は解決済みで、そもそも領土問題は存在しないとの立場をとってきたが、この態度が中国の反感を煽ってきた。もちろん日本には日本の立場があるが、中国にも言い分があるなら、話を聞いて議論を行うという態度を示すことが必要だ。1972年に田中角栄と周恩来は尖閣問題を棚上げし、次世代に任せることで合意した。今回も、中国が一帯を無法に荒らし回ってはいけないことだけを合意して、より賢い次世代に任せれば問題は解決する。問題が存在することすら認めないのはナンセンスで、却って問題の解決を阻害してしまっている。ただ、先日、安倍総理と習近平氏が会談を行い、武力衝突を回避することで合意できたのは歓迎できる。

――中国は日本の領海への侵入を繰り返している…。


鳩山 実はあまり知られていないが、中国側は領海に船舶を派遣する際、事前に日本側に通告している。日本政府はあたかも突然中国船が押し寄せたように反応しているが、実は暗黙の了解が出来上がっているのが実態だ。これは米中の間でも同じことで、米国が南シナ海での航行の自由作戦を行っていた時期に、米中両国の海軍はフロリダ沖で合同訓練を行っていた。表では米国と中国は喧嘩しているようにみえるが、実際は日中、日米よりも綿密に両国は連絡を取り合っており、表面だけで関係性を判断してはいけない。

――中国は脅威ではないのか…。


鳩山 そもそも、過去に攻め込んだ実績があるのは日本であり、中国の方が日本を脅威と思っていることを理解するべきだ。また、大手メディアが報じるように、反日教育を受けて中国人がすべて日本を嫌っていると考えるのは大きな間違いだ。最近、大量の中国人観光客が日本に押し寄せていることからもそれは明らかだろう。むしろ、彼らにとって日本は一つの憧れであり、多くの中国人は日本のようになりたい、もっと日本を学びたいと考えている。私は何度も中国を訪問しているが、一般の人と接して日本人嫌いと感じたことはないし、中国人からバッシングを受けたことも一度もない。むしろ日本の方が指導者が公然と中国脅威論を訴えて、大手メディアも追従しているために、反中世論が定着してしまったように思える。

――中国は日本の技術を盗んできた…。


鳩山 確かに知的財産権の認識が緩く、法律による保護は今も十分ではないかもしれない。中国の自動車ショーでは、現地メーカーが細部にわたって日本車を観察し、外見だけでも完全にコピーしようとする姿もみられる。ただ、中国は相当変化しつつあり、10年前のイメージで捉えるのは間違いだろう。かつては中国で落とし物が見つかることはほぼなかったが、最近では私自身失くした万年筆を見つけるなど、市民の意識は相当変化している。外交的にも、昔は日本を敵視することで政権維持を図るという考えもあったが、現在の政治指導者の大半はもっと日本と上手く付き合ってウィウィンの関係を築き上げたいと考えている。

――経済減速の不満を対日強硬路線で解消するのでは…。


鳩山 その恐れは全くないと思う。もし日本に対して実力行使を行えば、国際社会がどう動くか、中国はよく理解している。尖閣諸島を占領した場合、米国がどう動くかは不透明だが、いずれにせよ中国への悪評が高まるのは確実であり、対ロシア向けを上回る厳しい制裁が行われるだろう。せっかく経済が小康状態にあるのに、尖閣諸島のような小さな問題で状況を悪化させることはありえないだろう。

――いっそ日本も核武装した方がいいのでは…。


鳩山 それだけは決して賛同できない。核兵器は世界から無くすべきだし、そもそも、もう誰も使えない道具だと思っている。これは核兵器を使用した国の方が滅ぼされるためで、そういった意味では核の傘はもう意味がないといえるだろう。核の傘は米国が日本を統治するために使う論理だが、もし尖閣諸島を巡る問題がきっかけで米国が核兵器を使えば、日本の小島のためにニューヨークやロサンジェルスが核報復を受けることになり、このような馬鹿馬鹿しい話はない。だからこそ自前で核武装という議論もあるのだろうが、私としてはあくまで対話で危険をなくすことが必要と考える。これは武力は武力を呼ぶためで、例えば個人が刃物を持ち歩いていれば、肩がぶつかっただけで刃傷沙汰になりかねないのと同じように、核兵器をもってしまえば、些細な事で核のボタンが押される危険が増えるためだ。真に平和な世界を目指すためには、軍拡競争をどう控えるかを議論するべきだ。

――あくまで対話を重視する…。


鳩山 こうした見方にご批判があるのは承知しているが、こういうことを言う人間も必要だと思っている。戦争とは、互いへの恐怖のために対応がエスカレートして起きるものだ。これを防ぐには、対話によって恐怖をなくしていくしかない。そういう意味では、ヨーロッパではEU議会が、実質的な意味がない時代に作られたが、いつでも互いが集まって議論できる場所を提供したという意味では大きな意義があったといえるだろう。私が東アジア共同体の形成を訴えるのも同じことで、日本が国を挙げて平和と対話を目指すことをアジアの国々に宣言すれば、脅威は減っていくだろう。今はむしろお互いに脅威を高めている状況だが、これは公共の福祉の観点からは馬鹿らしいことで、軍備に使うお金は公共の福祉や医療に使った方が却って脅威削減にも繋がると私は思っている。

――しかし非民主主義国家と対話が可能なのか…。


鳩山 確かに中国が民主主義的でないことは、対話を阻害する懸念要素だ。しかし、ネット社会が生まれた今という時代では、中央の政府が一人一人の意思を縛ることは不可能で、民主的にならざるをえないと考えている。中国は13億人の民を一つの国に留めるという無理を重ねているため、強権的な部分もあるが、例えば私が南京の虐殺記念館を訪問した様子を収めた映像は、YouTubeで7億回再生された。一人が何回も見ているのだろうが、それでも多くの人々が私の訪問を注目していたのは間違いない。尖閣諸島を巡る問題や、南京大虐殺の否定発言、靖国参拝などで中国人がいら立ちを高めることはあるが、私のような人間が彼らの気持ちを理解しようと努力していることが伝われば、気持ちの沈静化に繋がると思っている。日本で評価されるかは別だろうが、少しでも中国人の心に届けば、私の存在意義は全くないわけではないと思っている。