フィンテックへの研究は怠らず

フィンテックへの研究は怠らず

日本相互証券
社長
近藤 秀一 氏



聞き手 編集局長 島田一

――日銀による長短金利操作の導入以降、国債市場の流動性は大幅に低下している…。


近藤 2013年の異次元緩和以降、マイナス金利の導入、長短金利操作と次々に政策が打たれているが、当社の売買高で見ると2014年度をピークに市場は縮小に転じている。感覚的にはピーク時の8掛けから7掛けといったところだ。長短金利操作が導入された結果、投資家・業者とも相場の先行きに対する見方が一様となっており、今後も当面はボラティリティの低い状況が続くと見ている。個社の経営にとっては逆風であるが、大規模緩和政策は財政・成長戦略等を含めたポリシーミックスの一環であり、デフレからの脱却や経済の好循環の実現を目指すという目的自体は当社も共有している。効果の検証は専門家に任せるとして、当社としては我慢をしながらも流動性を付けるべく努力をしていく所存だ。

――流動性を高めていくための方策は…。


近藤 創業以来掲げている「公平・公正・透明」の3原則に加え、取引の正確性と迅速性を追及していくことに尽きる。当社は1973年の創業以来、業者間市場の仲介業者としての専門性を培って来たほか、電子取引による迅速な執行とトレーダーによる手厚いサポートという当社独自の営業モデルを確立した結果として、顧客から高い市場シェアを頂いている。このアドバンテージを活かしつつ、システムの利便性や営業マンの質の向上に向けて地道な努力を重ねていく。特にシステムは陳腐化のスピードが早く、当社としても販売費・一般管理費の約半分を充てて対応している。また、今後も取引のT+1化など市場の要請にも応えていく必要がある。

――日本国債の取引仲介業務以外にも乗り出す考えは…。


近藤 結論から言うと、現時点では全く考えていない。当社はこれまで40年以上、債券業者間取引の仲介に徹しており、それこそが当社のコアコンピタンスであり当社設立の趣旨でもある。また、自らポジションを取ったり、対顧客の営業を開始したりするということは、陣容的にも現実的ではない。売買の仲介業務の範囲を広げるとすれば、その商品に一定の流動性が存在することが条件のひとつとなり、その意味では外債、とりわけ米国債が候補に挙がるかもしれないが、米国債にはすでに確固たるプレイヤーがいる。金利スワップなどについても勉強はしているが、何より日本国債をはじめとする本邦債券市場はまだしっかりと存在している。新規事業に手を付けるのではなく、マーケットの急変時でもスムーズな取引機会を提供できるよう、システムの高度化や営業態勢の充実に注力していきたい。

――サイバーセキュリティ対策については…。


近藤 どの証券会社もそうであろうが、当社もリスク管理や情報セキュリティの対策には重きを置いている。当社は証券会社ではあるが市場リスクや信用リスクは比較的小さいため、優先して取り組むべきはシステム・情報セキュリティ・オペレーションに係る各リスクへの対策だ。この数年は特に大きなシステム障害も無く、安定的な運用が確保されているが、引き続き取引システムの安定稼働に注力していく。また、情報セキュリティ対策も全社を挙げて取り組んでおり、直近では私を先頭としてサイバー攻撃に対する全社ドリルを実施したところだ。セキュリティ対策に終わりはなく、常に進化していかねばならない。事業継続計画にも常にアップデートが必要だと考えており、オペレーショナルリスクについても、フロント・ミドル・バックの所謂スリーラインディフェンスをさらに強化・整備していく方針だ。

――フィンテックへの対応については…。


近藤 フィンテックという言葉について明確な定義は無いようだが、事業会社でいうところのR&Dのようなものとして研究は怠らずにしておきたい。例えば米国債ではすでに超高速売買を得意とするヘッジファンドがメインプレイヤーの一角となっているようだ。日本国債の売買は引き続き大手証券が中心となっているが、もし米国のような方向に進んでいくのならば、大量の約定や決済などにも対応する必要が出てくる。現時点でどうなるかの予想は難しいが、当社としてはそうした動向について関心を持って見守っている。さらに自律分散型組織やAI、ブロックチェーンといった話になると、その進展が債券市場にどのように影響するか、正直なところ明確ではない。これらによって、債券流通市場の運営主体が不要になる可能性があるとも言われているが、マーケットの概念を覆すような事態が起こるとしてもまだまだ先の話なのではないか。

――最後に、今後の経営面での目標を…。


近藤 流通市場と発行市場は車の両輪であり、流通市場に厚みがあって初めて効率的な債券の発行や資金運用が可能となり、ひいては国民経済に資することとなる。そうした意味でも当社が行っている業務は、取引所や決済機関と並んで重要な市場インフラだ。業者間市場の最大の担い手として市場流動性の維持・向上に努め、公正な価格発見機能を果たすことが当社の社会的使命だと考えている。引き続き、社会的使命を自覚して国債の業者間市場のスタンダードであり続けることが目標だ。そのためには、システムの安定稼働と利便性の向上、そしてトレーダーの育成が大切だと考えている。また、公的な使命はあれども、民間企業である以上、株主・従業員その他ステークホルダーと共存・成長を図っていくことが私に課せられた責務だと認識している。