取締役会の実効性向上を

取締役会の実効性向上を

実践コーポレートガバナンス研究会
代表理事
門多 丈 氏


聞き手 編集局長 島田一

――社外取締役を設置する企業の割合が増加した…。


門多 東証の集計によると、1部上場企業のうち約80%が2名以上の独立社外取締役を置いており、コーポレートガバナンス・コード導入後の2年間で割合は大幅に上昇している。マザーズ・ジャスダックの上場企業では複数の独立社外取締役を設置する割合は30%弱にとどまるっているが、少なくとも1部上場企業の間では取締役会の構成が着実に変化してきている。数年前までは「社外取締役を導入すべきかどうか」が主な論点となっていたが、今後は「取締役会の効率的な運営に向けて社外取締役をいかに活用すべきか」という議論を深めるべきだと考えている。

――取締役会の運営の効率化が必要だ…。


門多 取締役会は、すでに社内で決定済みの議題のみが上程され、運営が形式的になっているという問題点が指摘されている。ただ、社外取締役が入った以上、こうした運営は変えざるをえないし、変えるべき時に来ているといえよう。コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことにより、機能の向上を図るべきとの原則が示されている。取締役会でどのような議論が行われるか、あるいは実効性評価がどのように行われるかは今後の課題となるが、例えばみずほフィナンシャルグループでは取締役会において通常の議題以外にもテーマを定め、別途議論をするなどの工夫をしているようだ。このほかの1部上場企業でも、社外取締役を交えた議論を行うことで企業戦略やリスク管理に役立てることができる状況になってきている。グローバル化や技術革新が急速に進むなか、企業が進んでいく方向性の議論を行ううえで外部の知見を活用することは必要不可欠だ。

――複数の社外取締役を置いても、社長が社外取締役を決めれば”仲間”を増やすだけだ…。


門多 そのリスクは大いにあると考えており、我々としては指名委員会が果たす役割の重要性を指摘している。ただ、社長の意に沿う発言しかしない取締役を選んでしまうリスクは、社内取締役のみを設置する場合の方が高く、社内だけの密室でやるよりも一歩進んだと評価すべきではないか。この点、金融機関の場合は金融庁が取締役会の議事録をすべてチェックしているため、逆に社外取締役にしっかりと発言してもらわないと、検査で「ガバナンスが機能していない」と指摘される恐れがある。また、東芝やオリンパスでは社外取締役を置いていながら不祥事が起こったとの指摘もあるが、この両社は監査委員会の委員長や常勤監査役に不正に関与した人物を就けるなど手口が巧妙だった。指名委員会等設置会社の趣旨からして、監査委員会の委員長は社外取締役が務めるべきであり、「追認主義の社外取締役がいたから事件が起こった」という見方は誤りだ。さらに言えば、仮に取締役会が社内取締役のみで構成されていた場合、さらに悪い事態に陥っていた可能性は拭いきれない。

――一般事業会社の場合には金融庁のようなチェック機関はない…。


門多 それについては、「スチュワードシップ・コード」に基づく機関投資家の関与が最大のポイントだ。スチュワードシップ・コードでは、取締役会で企業戦略やリスク等を議論しているか、あるいは社外取締役がきちんと発言しているかといった点について、機関投資家と企業が対話を行うことを想定している。日本ではコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードが車の両輪となり、機関投資家やアセットオーナーが取締役会の議論を監視するという考えに立っている。さらに、東証1部の時価総額上位400社では、海外機関投資家の株主比率が30%程度にまで達している。このうちの大部分が年金など長期保有の機関投資家であるとすれば、海外の投資家との間でもガバナンスに関する対話を行うことが必要になっている。

――株主とその代表者である取締役会の比重を高めると、目先の利益重視に陥りやすい…。


門多 会社法では取締役が株式会社のために、職務を忠実に行う義務があることを定めている。株主が会社の主要なステークホルダーであるとのロジックが働く。、コーポレートガバナンス・コードでは取締役会の株主に対する責任に加え、全てのステークホルダーとの調和ということを前提に置いている。企業の長期的かつ安定的な成長という観点からは、個人的にもROEは短期的な尺度でしかないと考えている。コーポレートガバナンス・コードでも示されたように、企業は株主だけのものではないし、株主のためにと言って目先の利益を追及しても持続的な成長は出来ない。経営や技術開発については長期的な視点で評価しなければならない。取締役会としては、その長期的な観点からいかに投資家を説得するかが重要になり、そのためには対話の深化が大事だ。

――リーダーシップのある有能な経営者がいる場合、社外取締役は不要だ…。


門多 確かに、オーナー経営者がメリハリのついた運営を行っている企業の方が株価も伸びているという事実はある。しかし、その経営者の良い部分をさらに伸ばしていくこともコーポレートガバナンスの役割だ。スティーブ・ジョブズがCEOを務めていた頃のアップルにも、社外取締役が存在していた。オーナー経営者のイニシアチブは大切にするべきだが、株式を上場している以上、やはり取締役会はステークホルダーの立場で議論すべきではないだろうか。また、社外取締役が不要なのではなく、「どのような社外取締役が必要なのか」という観点から考えることが重要だ。経営のモニタリングを行う者、あるいはアドバイスを行う者など、各企業の状況に応じて、社外取締役の役割を柔軟に捉えてもよいのではないか。

――そもそも社外取締役を置くこと自体、各企業の判断に任せるべきだが、 日本では強制的な感じになっている…。


門多 コーポレートガバナンス・コードでは「コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を守るか、守らない場合には理由を説明せよ)」方式が採用されており、社外取締役を設置しなくともその理由を十分に説明していれば何の問題もない。ただ、日本企業の場合はどうしても横並びの意識が強く、必要以上に原則を遵守する傾向はあるのかもしれない。社外取締役についても、「仏作って魂入れず」といった状況に陥るリスクは常にあり、これを有効的かつ効率的なものにしていくのが今後の課題だ。

――一1人が何社もの社外取締役を兼任している状況も目立っている…。


門多 社外取締役がきちんとコミットするとして、1人で担当できるのは2~3社が物理的な限界だと思っている。ただ、社外取締役の兼任は利益相反が生じる可能性があるため、上場企業は少なくとも株主総会で取締役の候補を示した時点において、その兼務状況を開示する必要がある。社外取締役の兼任状況は議決権行使会社がチェックをしており、1人で5~6社を兼任するようなことは許されなくなってきているのではないか。

――日本では、社外取締役に相応しい人材がまだまだ少ない…。


門多 それは世界的にも共通の課題だ。コーポレートガバナンス・コードの導入の次は、取締役会の実効性評価に加え、実効性を担保するために取締役の教育をしていくことこそが必要だ。実践コーポレートガバナンス研究会では現在、監査役の教育・研修プログラムを実施しているが、取締役に関する教育カリキュラムも準備している。今後は取締役についても教育・研修プログラムを実施していく方針だ。