循環型社会で様々な課題を解決

循環型社会で様々な課題を解決

環境事務次官
小林 正明 氏


聞き手 編集局長 島田一

――現在の環境行政のテーマは…。


小林 環境行政においては従来、公害や自然破壊への対応が中心であったが、最近は循環型社会の実現に向けた取り組みを進めている。公害問題については、河川などフローの部分については汚染対策がほぼ終了している。ただ、湖や港湾に溜まった汚染土壌や地下水汚染といったストックの部分はやっかいで、完全に解決するまでにはなお時間を要する。このほか、アスベストやポリ塩化ビフェニル(PCB)など、人体への悪影響を把握しないまま大量に使用された物質の始末には苦労している。PCBはカネミ油症事件で健康被害が確認されて以降、使用は中止されているが、世の中にはPCBを使った製品がなお出回っており、一生懸命探し出して処理をしている状況だ。アスベストも建材として一時期非常に重宝され、アスベストが使われている古い建造物も残っている。こうした事例を踏まえると、やはり多少の手間や費用がかかろうとも、最初から環境という要素を組み込んでおいた方が結果的にはローコストだということになる。環境への配慮が重要であるとの認識は社会的に共有されてきているのではないか。

――日本が循環型社会を目指していくメリットは…。


小林 いかに安く捨てるかを問題としていたゴミを資源と捉え直していけば、資源の無い国と言われている日本が資源国になる可能性は十分ある。日本では江戸時代から循環型社会という思想はあったものの、昭和の高度経済成長期に環境から成長に一気に舵を切り過ぎたと言えよう。ただ、環境問題が起こってから対策を打つよりも、やはり最初から環境と経済成長を両立する道を選んだ方が社会として合理的であろう。それがまさに循環型社会であり、現在はまさに新しい循環を作ろうとしているところだ。また、脱炭素社会の実現や生態系の保護も大きなテーマであるが、これらを全て叶えた時に社会として一番良い答えが出ると考えている。加えて、循環型社会の実現を目指していくことで、各地域が抱える様々な課題にもしっかり応えることができると実感している。

――循環型社会の実現と、地域の課題解決との関係は…。


小林 東日本大震災以降、地方自治体としても災害に備えて自前のエネルギー源を持つことの重要性に気付いてきており、バイオマスや風力、太陽光を含め、エネルギーの地産地消といった取り組みを目指すところも増えている。最近では、比較的小規模の市町村においても環境エネルギー課などエネルギー関連のセクションが設置されてきており、エネルギーに対する地方自治体の意識はかなり変化してきている。環境省の地方自治体向けの施策の一例としては、避難所などの公共施設への再生可能エネルギー発電設備の設置に対する支援を行っており、当初は東日本大震災の被災地域のみを対象としていたが、それ以外の地域からも強い要請があったことから、対象を拡大して環境省の予算で全国数多くの自治体を応援させて頂いた。その後も様々なアイデアが寄せられており、現在はトラックやバスなど大型の燃料電池車の開発を国土交通省、経済産業省と共同で推進している。街中に走っている車を燃料電池車に置き換えることで低炭素化が可能になるほか、災害発生時には避難所等に横付けすることにより、車の電池を非常用電源として活用することを目指している。

――循環型社会に対する民間の機運はどうか…。


小林 現在関心を持っているケースとしては、東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会が大会のメダルを携帯電話等に含まれるリサイクル金属で作るというプロジェクトを立ち上げ、現在は事業協力者を募集している。リオデジャネイロ大会でもメダルの一部にリサイクル金属を使用したようだが、仮に100%リサイクル金属を使用したメダルを作ることが出来れば東京大会が初となる。「都市鉱山」という言葉があるが、日本がこれまで工業国として一生懸命頑張ってきた結果として、国内には多くの資源が蓄積されている。資源を安全に取り出す技術も持っており、今回の取り組みは循環型社会に対する日本の姿勢を世界に示すものとして実現を期待している。組織委員会から依頼があれば、環境省としてもぜひサポートしたいと考えている。

――循環型社会の実現に向けた今後の環境省の取り組みは…。


小林 国際社会ではこれまで、困っている途上国をどのように支援するかが課題とされていた。ただ、状況が一定程度改善したことを受け、むしろ先進国も途上国も実力に応じて環境課題に取り組まなければいけないということで、国連では昨年に持続可能な社会を作るための2030年に向けた目標を決定した。この目標には気候変動への対策に加え、生態系の保護、持続可能な生産・消費システムの構築といった様々な分野が含まれており、各国首脳が集まる場でも環境問題は重要なテーマとして扱われている。環境省では環境基本計画や循環型社会形成推進基本計画を策定しているが、これらが改定の時期を迎えるに当たり、環境と経済、社会的な課題を解決するための政策がどうあるべきかとの議論にまさに着手しようとしているところだ。非常に壮大なテーマであるため、環境省や他の省庁に加え、産業界、市民グループ、地方自治体など多様な関係者の声を聞く必要があり、そのための会議体を立ち上げた。今後に議論を交わしながら、最終的には将来に向けた新しい方向性を打ち出していきたいと考えている。

――国民の世論も経済成長から環境重視へと意識が変化してきている…。


小林 国連気候変動枠組条約が採択された1992年時点では、日本はGDP当たりの二酸化炭素排出量では米国や欧州各国と比べて相当優秀な水準にあった。それから20年以上が経ち、日本は当時の状況からさほど改善していない一方、米国は日本よりなおGDP当たりの排出量は多いものの過去との比較では相当低下しているほか、欧州のなかでは日本よりも輩出量が低いような国も出てきている。これは日本のGDP自体が伸び悩んでいることが影響しており、個人的には日本の技術的な優位性がイノベーションを起こす力を含めて弱体化してはいないかと心配している。ただ、なお日本は豊富な成長ポテンシャルを有しており、これを発揮していくためにはどのような社会を目指していくかを明確に打ち出することが重要だ。経済が右肩上がりの時代は全国総合開発など大きなビジョンを社会全体で共有していたが、今後は経済の「量」ではなく「質」を追及していくことも新たな道の1つであると考えている。「質」を重視する経済は環境ともマッチするはずであり、環境省としても経済成長と環境の両立を目指すべく提言を行っていく所存だ。

――社会全体としてこれまでの方針を見直す時期に差し掛かっている…。


小林 地球温暖化を食い止めるためには、二酸化炭素の排出量を2050年までに80%以上削減する必要があるとの試算結果が示されている。この目標を達成するためには大幅な技術革新だけではなく、社会構造や国民の暮らし方、マインドを含めて相当な刷新が必要となるだろう。ただ、私としてはこの事実をそこまで悲観的に捉える必要はないと考えている。日本は急激な経済成長を達成したが、身近な人を含めた地域や環境との関わり合いといった面を含め、かつて思い描いたほど幸福になったと言えるだろうか。こうした意味では、環境の分野でも地方創成に貢献していきたいと考えており、現在は各地方自治体が環境面も織り込んだ産業連関分析を出来るようにするべく提案を行っている。地方自治体のエネルギーに関する資金の出し入れを可視化することにより、エネルギー関連の域外への資金流出を抑えるための省エネルギー化や地域資源の有効活用にもつなげることができると見ており、これを地域創成の1つのツールとして使えるようにしていく方針だ。