覚悟を持ち米新政権と交渉を

覚悟を持ち米新政権と交渉を

自民党
参議院議員
片山 さつき 氏


聞き手 編集局長 島田一

――トランプ米大統領の就任式に出席した…。


片山 米国では国家元首が大統領となるため、新大統領の就任は日本で元号が変わるくらい大きなインパクトがある出来事だ。就任式は、国民が大統領の承継を証人として見届け、プロテスタントなど主流な宗派が新大統領の就任を祝福する儀式だ。就任演説は、各大統領でどの程度具体的かは差があるものの、政策にも踏み込む内容となる。この点、トランプ新大統領の演説での最大の特徴は、米国の国民が権力を取り戻す「脱ワシントンエリート」を掲げていることだ。民主党から共和党に政権が移行するだけではなく、共和党でもワシントンのエリートのみが恩恵を受けるような政策は否定する。オバマ前政権の政策の否定もテーマで、TPPからの離脱や、医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止を表明し、早速大統領令に署名した。

――トランプ新大統領の政策に対し、日米のマスメディアでは否定的だ…。


片山 私は経済政策そのものには評価できる面があると見ている。年4%の経済成長の達成を目指すと明言しているが、米国は日本と比べ潜在成長率が高いうえ、大規模な財政出動によりインフレが見込めることで実現は可能だ。このほか、今後10年で2500万人の新規雇用創出や、高速道路や橋など老朽化したインフラを立て直す政策はどこまで実現可能かはまだわからないが、特に法人税の抜本改革案は影響が大きい。トランプ新大統領は、法人税を現在の35%から15%まで引き下げると主張している。諸外国に比べて高い法人税率はアメリカ本土に法人登録する足かせとなっているが、仮に20%台に引き下げられるだけでもインパクトがある。

――トランプ政策の世界経済に対する影響は…。


片山 トランプ新大統領は企業を米国に戻そうとしている。米国は巨大な輸入国であるため、米国経済が良くなれば輸入の増加が好影響として考えられる。メキシコからの輸入品に対し高い関税をかけるなどと発言しているが、実際は米国が輸入そのものをすぐ止められるわけではない。このため、米国経済の拡大は、各国の米国への輸出増を通じ世界経済にプラスとなる。一方、この政策では、インフレ金利引き上げとドル高になる。ドル高になれば、世界中から資金を吸い上げることになるうえ、米国が輸出を増やそうとしても、製造業にとっては逆境となる。ドルは基軸通貨としての役割を避けられないため、この矛盾にどう対処するかは課題となる。また、米国経済の拡大によるプラスの影響が維持可能かどうかは別問題だ。税収が増える見込みがあれば、政策は維持可能となる。ただ、トランプ新政権の支持率は非常に低いため、「100日計画」と呼ばれる新政権の計画で結果を出すことに重点が置かれるだろう。文書による何らかの合意形成より、米国内の工場やサービス業の雇用が増加するなど、数字に表れる結果を重視する。他国間との交渉も今までより具体的な数字の結果が見えるまで止めない可能性がある。

――日本企業の対応はどうあるべきか…。


片山 自信がある企業はトランプ新大統領と直接交渉するのも1つの手だ。日本企業では、ソフトバンクグループの孫社長が実際に面会を果たし、トランプ新大統領から評価も受けている。ただ、各企業が米国法人として異なる州に進出し、モノ作りの過程も違うなかでは、業界団体としてまとまって交渉するのは難しい。トランプ政権による全ての企業へのマイナス影響を懸念する声もあり、それには全業界的な対策が必要という意見もあるが、基本はあくまでも各社による交渉で自身に有利に進められるかという問題となる。自動車メーカーでは、米国内での工場建設を表明する動きもあるが、上場企業は株主にマイナスになる判断はできないため、一律にそうできるとは言えない。トランプ政権がこれまでの政権と最も異なる特徴は、政策のスピード感となるため、各企業は言いなりになるのではなく、きちんと反応して少なくとも不利にならないよう対応していかなければならない。

――米国のTPP離脱をどう見るか…。


片山 トランプ氏は政治家と異なり、企業経営者、CEOとしての特徴が強いため、自身が得意とする通商政策をまず進めている。TPPを完全に離脱する方針の表明もこの一環だ。これにより、TPP発効が難しくなっているが、これは日本1国の課題というより、他の10カ国の判断が重要となる。他国が米国との2国間交渉を進めるかどうかは焦点となるが、今すぐに交渉を受ける必要があるかも各国の判断となる。とはいえ、日本はG7の一角として多国間での政策を進めるノウハウがあるうえ、円という国際通貨を持つ国としての責任もある。アジア各国の中では唯一政策運営の方法を確立しており、国際社会のリーダーとして確固たる地位を築いていると言える。

――金融市場への影響は…。


片山 新政権の財務長官には、米ゴールドマン・サックス出身のスティーブン・ムニューチン氏が就任した。ウォール街出身でファンドを立ち上げた経歴もある同氏が市場を混乱させるような政策を出す心配はないだろう。だが、金融市場をよく熟知しているだけに、日本にとって厳しい交渉が要求される可能性はある。このため、非常に手強い相手とも言えるが、日米間で交渉が必要なことでも、完全に決裂するとも考えがたい。最終的には合意が形成される展開が予想される。

――米国はなりふり構わず自国を第一に押し上げようとしている…。


片山 まずは米国国民を豊かにする使命があるなか、世界の銀行、警察という役割をこれまでのように負担し続けることは難しいという本音が出たのだろう。日本にとっては、米中間に挟まれるという宿命は避けられない一方で米国頼みというわけにもいかないうえ、中国への対処もおろそかにできず、外交は新しい局面を迎えている。そうした覚悟を持ってトランプ政権と交渉していく必要を強く感じている。