証券会社の存在意義高まる

証券会社の存在意義高まる

いちよし証券
取締役会長
武樋 政司 氏


聞き手 編集局長 島田一

――長年、「貯蓄から投資へ」がなかなか進まない…。


武樋 「貯蓄から投資へ」が進まないと言われているが、今ようやくその入り口に入ったばかりと考えている。日本版ビッグバン(~2001年度)から十数年が経過したが、明治維新も大政奉還(1867年)から西南戦争(1877年)まで10年間と長い期間を要した。このように日本という国は英国や米国のようにドラスチックに変わるのではなく、10年スパンで変化していく歴史を持つ。この30年間、日本は金融不安などまるでブラックボックスのような長い期間を潜り抜けてきた。その間に、個人金融資産は1300兆円から足元までに1700兆円まで拡大した。それでも今の日本の貯蓄率は55%と、米国の15%、ドイツの30%と比べると圧倒的に高いままだ。これは戦後70年間、金利が物価を上回る期間がほとんどであったことに起因するが、3年位前からは金利よりも物価のほうが高い実質金利マイナスの時代に突入していると考えられる。貯蓄が目減りしていくことになるため、預貯金の運用と真剣に向き合う必要が出てきている。つまりは預貯金を有価証券に移していかなければならない時代に入っているという経済的要因が挙げられる。

――経済的要因の他には…。


武樋 現在、60歳以上の世代が個人金融資産の約70%を保有していると言われている。その一方で寿命が10年間で約2年ずつ確実に延びていて長寿リスクを回避するため、また、社会保険の自己負担も従来に比べ急激に増えてきていてこの世代が金融資産を有価証券で運用しなければならない必要性が確実に高まってきている。貯蓄中心の古い世代とは違う有価証券運用について新しい感覚を持った昭和22年~24年生まれの団魂の世代が70歳に差し掛かってきており、この団塊の世代中心に今後10年間で毎年50兆円規模の相続財産が引き継がれる時代に入ってきたことも「貯蓄から投資」を大いに促進することになろう。さらに、年間約10兆円(うち、公務員約3兆円)の退職金マーケットも、今後、資産運用ニーズのある大きなマーケットになってくる。また、NISAや個人型確定拠出年金なども「貯蓄から投資」の促進に冷や酒の様に効いてくると想定できる。これらの諸々の背景を考慮すると、我々証券会社が本当に個人のお客様の有価証券運用のお役に立たなければならない時代にいよいよ突入してきている。

――現在の国内株式市場、個人の参加具合は…。


武樋 株式市場の保有構造は個人が17%、外国人投資家が60%強となっている。アベノミクスでマーケット環境が良くなり、その後一度停滞し、一昨年の中国問題、原油安で悪化し、そして今度のトランプラリーとボラティリティが激しい株式相場が続いた。個人投資家が買い越したのはわずか2~3カ月の間で、それ以外は皆売越しになっていて、外国人投資家主導のマーケットとなっている。また、リーマンショック以降、ボラティリティが激しいなかで、ネット証券経由で短期売買が急増したが、株式を資産としてじっくりと中長期投資することが今必要視されている。

――じっくり投資できる株式を売れるのが証券会社ということか…。


武樋 それは銀行ではなく我々にしかできないことだと思っている。当社は20年来、「売れる商品でも、売らないという信念」を持ち続け、個人のお客様向け商品についての原理原則である「いちよし基準」を遵守してきた。投資するうえで信頼できる相談相手が欲しいというのがお客様の一番のニーズだ。会社の手数料ありきではなく、お客様目線に合わせていけるビジネスモデルを構築し、お客様の信頼を得ることが最も重要だとの考えにまったく変わりはない。いちよし基準は社内ではすでに定着しているが、大手銀行や大手証券に比べればまだまだ知名度が低いと認識している。ただ、預かり資産残高4000億円だった1997年頃に比べ、足元では預かり資産は4・5倍にまで拡大している。株式の基本はリサーチ、中長期、分散投資であり、これに尽きる。この点、900兆円の預金が目指すところはベース資産をプラットホームとした分散投資だ。例えば、投信であれば債券中心の投信をベース資産とし、そのうちに資産の一部をアクティブな投信とする。株式も同様に資産株の中長期運用をベース資産とし、資産の一部をアクティブな株式とする。このようにベース資産を土台としたピラミッドを拡大し、巨大なピラミッドの作っていくという考え方を提唱している。現状、預金がメインとなっていることからポートフォリオといった考え方をしている投資家は少ない。しかし、我々が提唱しているローリスクローリターン、ミドルリスクミドルリターン、ハイリスクハイリターンを組み合わせたポートフォリオによる資産形成が、いよいよこれから必要となってくる。それを支援するのが我々の使命だと考えている。

――金融庁に対する要望は…。


武樋 NISAで若い世代の投資推進を図ろうという試みや個人型確定拠出年金で投資の裾野を拡げようという制度は大変良い仕組みであるが、まだまだ改善の余地があるので出来るだけ早く制度の充実を図ってほしい。証券税制については、制度の大枠では金融所得課税の一本化や配当の二重課税の廃止が望まれる。また相続時の税評価額を有価証券も不動産と同じ時価の7掛けにすべきである。更に、キャピタルゲイン課税の引き下げ、株式の長期保有者に対しての不動産並の税優遇措置や上場株式等の譲渡損失の譲渡控除期間を現行3年からの延長など導入してほしい。今後、個人家計においては金融資産を有価証券で運用しなければならないニーズが高まっていくことが予見できる。そういった意味合いで今やっと「貯蓄から投資へ」の入り口に入ってきたところであり、この流れを促進するためにも個人の有価証券投資に対して税の優遇が大いに望まれる。

――御社はガバナンスに定評がある…。


武樋 6~7年前からコーポレートガバナンス研究所(JCGR)の調査への参加し、最初はランキング18位だったが、おかげさまで最近は4年連続で2位をいただいた。なぜ我々が上位を維持しているのか、皆、疑問に思うだろう。1997~98年にかけて山一証券、三洋証券、拓殖銀行など金融機関の破たんが相次いだ。それまで当社の株主構成は上位10社のうち6社が銀行だった。その銀行勢が当社が銀行系列ではないことを理由に株式を売却してきたが、我々は自社株買いを実施し、そのほとんどを償却したが、2000年以降にかけて株主に外国人が名を連ねてきて約30%近い持株比率になっている。このため、外国人株主対策としてガバナンスを強化するべく、2003年に委員会設置会社制度(2004年に指名委員会等設置会社に改称)を導入。2006年には社外専門家委員会も設置した。株主総会も15年前から土曜日に実施し、総会後は株主と懇談会を開催し、親睦を深めている。海外IRも行っている。他方では、2000年に配当性向20%、2004年には30%、55周年には100円を発表し、今では配当性向50%もしくは純資産の4%のいずれか高い方を採用している。株主還元率は相当に高いと自負している。また、取締役会では、社外取締役を4名、社内取締役を2名の構成を敷いて、社外を多くすることで公正な運営を図っている。こういった活動が実を結んでいると考えている。

――社外取締役制度を導入してもガバナンスが効いていない企業が多い…。


武樋 「仏作って魂入れず」ということわざがあるが、まず仏を作らないことには魂を入れようがない。まず、仏を作るという意味あいにおいては、指名委員会等設置会社が一番良い仏であると思う。しかし、この制度が出来て14年になるが、いまだ全上場会社中、70社位しか採用していない。次に、どの様な制度でも魂を入れることが課題になる。まず、第一に、経営のトップが不正をはたらかず、隠蔽せずに透明で公正な経営に努力することだ。第二に社外取締役に経営トップの耳の痛いことでもどんどん指摘できる人物を配置することだ。そういう意味では、社外取締役にふさわしい人物の層が厚い米国に比べ、日本のコーポレートガバナンスの課題は多い。