実習制度は安い労働力目当て

実習制度は安い労働力目当て

国士舘大学
教授
鈴木 江理子 氏


聞き手 編集局長 島田一

――外国人労働者の現状は…。


鈴木 現在、在留外国人数は約238万人で、そのうち労働者として働いている人は、ニューカマーだけでも100万人を超えている。ニューカマーの外国人を対象とした外国人雇用状況届出(2016年10月末現在)をみると、最も多いのは、永住者や日本人の配偶者等などの「身分または地位にもとづく在留資格」で、全体の38.1%を占める。そのほか、留学生などのアルバイトが22.1%、技能実習生が19.5%、専門的・技術的労働者である「就労を目的とする14の在留資格」が18.5%となっている。このうち、労働者として正式な「フロントドア」で受け入れられているのは、就労を目的とする14の在留資格の外国人だけで、他は労働者として受け入れられているのではない、いわば「サイドドア」の労働者である。

――サイドドアではない、本来の労働者が少ないのはなぜか…。


鈴木 フロントドアからの労働者の割合が少ない理由の1つは、そもそも対象である専門的・技術的労働者が、在留外国人の1割強しかいないためだ。移民/外国人の受入れには、ナショナルな国益レジームとトランスナショナルな人権レジームがある。専門的・技術的労働者は前者の外国人であり、後者は家族の呼寄せや難民などで、後者が多数を占めるのは、他の先進諸国も同様だ。2番目としては、実際の労働市場では、フロントドアからの労働者よりも、それ以外の、例えば工場労働者や建設労働者、農業従事者やスーパーの店員などに対するニーズが高いことがある。さらに、専門的・技術的労働者、とりわけ高度人材からすれば、日本で働く魅力が乏しいこともあるだろう。彼/彼女らはグローバルで活躍できる人材であり、引く手あまたで、より条件の良い企業や国を選ぶことができる。給与や雇用環境からみて、日本はさほど魅力的とはいえない。また、日本企業の側も、高度人材を本当に求めているかは疑問だ。どちらかと言えば、組織に対して従順で、会社の調和を乱さない人を好み、自分の意見を積極的に主張するような人を求めていないのではないか。政府方針としては、専門的・技術的労働者を積極的に受け入れるということになっているものの、実際に日本社会で働いている外国人の多くが「サイドドア」からの労働者たちだ。そのなかには、昨今、メディア等でも批判的に取り上げられている技能実習生もいる。

――技能実習生とはそもそも何か…。


鈴木 技能実習制度とは、本来、途上国に技能等を移転する国際貢献を目的とする制度だ。けれども、実態は、安価で使い勝手のよい労働力供給のための制度として利用されることが多く、国際貢献どころか、日本のイメージを損ないかねない面もある。もともとは、研修制度としてはじまり、のちに研修・技能実習制度となり、その後、研修制度と技能実習制度が切り離された。当初の研修制度では、研修生を受け入れることができるのは大企業に限られていた(企業単独型)。国際貢献するためには、受け入れる側に一定の体力がなければ難しいとみられたためだ。ところが、バブル景気の1990年に、中小企業であっても、協同組合等の監理のもとで受け入れる「団体監理型」がつくられた。現在、技能実習生のおよそ96%がこの「団体監理型」による受入れだ。受入れ企業の多くが、重層的下請け構造の末端に位置する事業所で、技能移転などを行う余裕などなく、労働コストを抑えるために技能実習制度を利用せざるをえない。もちろん、「団体監理型」であっても技能等を修得した実習生もいるだろうが、受入れ企業が技能実習制度を活用する第一の目的は、安価で使い勝手のよい労働力の確保だろう。

――制度を見直す必要がある…。


鈴木 見直しを行う際には、ただ「国際貢献」という看板をはずして、労働者としてフロントドアから受け入れる制度を創設すればよいというものではない。「安価な労働力」という考え方を捨て、労働者としての権利や生活者としての権利を、日本人同様に保障していく必要がある。ただし、その場合には日本人にも覚悟が必要だ。100円ショップや24時間営業のコンビニ、廉価な飲食店といった便利なサービスのなかには、技能実習生や留学生などの存在によって支えられているものも多い。いわば誰かを犠牲にして便利な生活を享受している部分があり、技能実習制度の濫用を終わらせるためには、こうした便利さを諦める覚悟も必要だ。

――何故今まで見直しが行われなかったのか…。


鈴木 制度の目的と実態が乖離していることに向き合わず、受入れ側のニーズを満たすことを優先し、「適正化」という名目で、根本的解決を先送りしてきたためであろう。けれども、技能実習制度の活用は、短期的なニーズを満たすという点ではいいかもしれないが、持続可能なものではない。例えば、地方では、若者が都市部に流出し、不足する労働力を技能実習生が補い、地場産業を支えている。なぜ若者が流出するかと言えば、その地域での雇用の給与が低く、待遇も悪く、魅力的ではないからだ。それを技能実習生で補ってしまえば、雇用環境の改善は進まず、日本人が働かない職種がつくられていく。けれども、実習生は数年で帰国する労働者であるため、地場産業を継承することはできず、経営者の高齢化が進む一方だ。これまでは技能実習生をローテーションで受け入れ続けることで何とか延命できていたかもしれないが、今後経営者が引退すれば、地場産業は衰退し、地方の空洞化がますます加速するだろう。

――外国人労働者の待遇改善が日本人を脅かさないか…。


鈴木 むしろ、外国人労働者の待遇改善によって、日本人労働者の雇用条件も引き上げられる可能性もあるだろう。もちろん、景気後退期の失業という問題はあるが、景気は必ず変動するもので、好景気もあれば、不景気もある。外国人労働者が日本人労働者よりも安く雇用できるということになれば、景気後退期に、日本人労働者の失業を招くかもしれない。だからこそ、外国人労働者を「安価な労働力」として扱わないということが重要だ。都市部ではさほど実感がないかもしれないが、地方では外国人労働者の存在なしには成り立たない産業もあり、外国人労働者を排除するのは現実的とはいえない。必要なのは、産業構造の見直しだろう。現状では、日本人が集まらないような職種で外国人労働者が雇用されていることが多いが、産業構造を見直すことでそういった職種の雇用環境が改善できれば、日本人の雇用の場を増やすことにもなるだろう。

――世界的に反移民の気運が強まっている…。


鈴木 確かに反移民に関する報道が目立つが、一方で移民の権利を守ろうとする人々もいることに目を向けるべきではないか。例えばアメリカの場合、非合法移民の総数は1100万人に達するとされるが、この膨大な人数がアメリカで生活できている背景には、非合法移民を受け入れるアメリカ人の意識がある。アメリカでは非合法移民の存在は身近で、農業やサービス産業などでは、彼/彼女らは欠かせない労働者である。歴史を振り返ると、メキシコなどからの農業労働者の受入れ、すなわちブラセロ計画が1964年に廃止されたことが、大量の非合法移民を生み出すことになった。移民によって成り立つ産業と、移住労働によって生活を成り立たせている人々が存在するため、正規のルートが閉ざされてしまえば、「不法」の抜け道を利用せざるをえない。アメリカでは、非合法移民の権利を擁護する市民団体も多数あるし、カリフォルニア州など、非合法移民を保護する法律をもっているところもある。たとえ「不法」移民であっても、それは、出入国管理の法律に違反しているだけで、人間としての権利の一切が否定されるわけではないはずだ。欧州でも、非合法移民の強制送還に反対する市民運動がある。

――日本人はそうした移民を巡る意識が希薄だ…。


鈴木 欧米に比べて、日本は移民/外国人受入れの歴史が浅いからだろう。しかし、日本の人口構造や将来推計を踏まえると、技能実習生のようなローテーションで受け入れる還流型ではなく、定住型の外国人、すなわち移民受入れを議論すべきである。欧米の報道を見て、「厄介だからやめよう」と移民を敬遠するのは現実的とはいえない。もちろん、誰だって苦労はしたくないし、今のままの状況が続けばいいと考えるのは理解できるが、日本が直面している人口問題はもはや誤魔化しで解決できる状況ではない。確かに移民が増加すれば、摩擦やトラブルが起こるかもしれないが、考えるべきはトラブルをどう防ぐか、また発生した場合には、どう解決していくかだ。受入れ後進国の日本は、欧州の経験から、その解決策を学ぶことができるだろう。さらに、日本は、欧州に比べれば割合は低いとはいえ、すでに移民/外国人を受け入れており、そこから学ぶこともたくさんはあるはずだ。少し注意してまわりを見渡せば、地域や学校、職場で、私たちは移民/外国人を目にすることができる。「移民」とか「外国人」とかというまなざしで捉えるのではなく、一人の人間として出会い、知り合えば、もっと身近な存在として考えることができるであろう。