随意契約の透明性を確保

随意契約の透明性を確保

上智大学
法科大学院 教授
楠 茂樹 氏


聞き手 編集局長 島田一

――東京五輪の会場建設費など、公共工事のコストの高さが問題となってきている…。


 私は東京都の入札監視委員会の委員を務めており、東京都による入札制度改革案の取りまとめ作業でもヒアリングを受けた。都が3月末に公表した改革方針では、1者入札の場合は入札を中止するなどとしているが、これは現場からすると無理筋な話だ。確かに、2者以上が入札に参加した場合、1者に比べて落札価格は何%か低くなるというデータは存在する。改革案では1者入札を無くすことで公共工事のコストを抑制できると主張しているが、これにより生じる弊害は無視しており、ヒアリングの席でも問題があると申し上げた。都が行っている公共工事では全体のうち約1~2割が1者入札となっている。仮に年間で5000件の公共工事があるとして、今回の改革案が実施されれば少なくとも500件程度が中止となる公算だ。再び入札を実施するためにはさらに2?3カ月ほどの期間をかけて再公告・再入札を行う必要があり、実務が滞ってしまう恐れがある。さらに、再入札でも応札が全く無かった場合はどうするのかといった議論は今回ほとんどされていない。大型案件に限定するとの話もあるが、弊害の影響もその分大きいということに留意すべきである。

――公共入札で1者応札が無くならない背景は…。


 過去の民主党政権時代には公共工事を減らしており、業者数に対して公共工事が少ないため、ダンピングによる受注競争が激化した。これにより業者の数が減少していたところ、東日本大震災からの復興や東京五輪の招致決定を受けて急激に公共工事の需要が増加し、需給バランスが受注者優位に大きく変化してしまった。需給バランスで受注側が優位な時に工事価格が上がるということは、ある意味自然の成り行きとも言える。予定価格が合わなければ業者は参入してこない。1者も応札しない不調のケースが多いということは、そう言った状況をよく説明している。確かに、発注機関が入札参加資格を無駄に限定していることが原因である場合もあるかもしれない。しかし需給バランスの結果として1者応札が多発しているのであれば、これを中止するのはナンセンスな話である。まずは原因分析をきちんとすることが先決だ。仮に1者応札を禁止するとしても、弊害をもたらさないよう慎重な取り組みが求められる。

――公共工事のコストを抑えるため、かつては海外業者を参入させる案もあったが…。


 今から30年ほど前、関西国際空港建設プロジェクトに海外企業を参入させるという話があった。ただ、日本の公共工事は下請けや各業界のしきたり、地元の利害調整などを含めて独特の風習のようなものが現実として存在する。大手や地場のゼネコンと違い、こうした実情に対応できない海外業者は、円滑に工事を進めることがなかなか難しいというのが実際のところだ。地理的な制約や言葉の壁もあり、海外企業が日本の公共工事に参入することはほとんどない。

――公共工事で談合が横行していることも高コスト化の要因では…。


 業界側としては、何らかの受注調整の仕組みは必要だという共通認識はあるのではないだろうか。直近でも震災復興事業での談合疑惑が浮上し、農林水産省のOBが関与したと報じられているが、世間的にこれだけ談合が批判されているにも関わらず、なおこうした事例が出て来ることがこれを物語っている。調整の結果による安定受注が工事の品質を支えているという発想から抜け切れていない。発注者サイドの行政としても、ある程度事前の調整をしないと公共工事を円滑に回せないという実情があるようだ。競争で決まった価格こそが本来の価格として扱われるべきだが、行政側には、予定価格こそが適正価格であり、これと乖離(かいり)する契約金額は望ましくないという発想がいまだ根強く存在する。これは突き詰めれば、議会の議決という民主主義の手続きによって決まった予算は正しい(はずだ)という予算無謬論に行きつくものだと言える。

――森友学園への国有地売却問題については…。


 森友学園への国有地売却を巡る一連の騒動では「忖度」に注目が集まっているが、「国有地の適切な売却価格はいくらなのか」という問題こそが重要な論点であることを認識すべきだ。条件が揃えば、市場価格よりも安い価格で譲渡することも法令上可能だ。今回の森友学園のケースでも、「学校設立という公的な目的のために土地を安く売却することの何が悪いのか」という議論がある。問題はその手続きだ。学校法人への国有地売却で森友学園と似たようなケースが他にもあるかもしれない。減額に至る手続きの検証が必要なのに、「忖度や口利きがあってけしからん」という論調ばかりで、安倍首相夫人と森友学園との関係性が無ければこれほどの注目は集まらなかっただろう。しかしこれは「忖度」問題で終わりにしてはならない重要な問題だ。

――今回の国有地売却の適切性はどうか…。


 報道を見る限りでは、国有地の売却手続きのずさんさは否めない。最大のポイントは、実際にいくらかかるか分からないごみ処理費用のために事前に約8億円の減額をしてしまったことだ。法令上適切だったと関係者は言うが、これは裏返せば内容は不適切だったと半分言っているようなものだ。ただ、売り手である国が、ごみ処理費用が不動産鑑定額よりも多額になるリスクを憂慮していた、という可能性は捨て切れない。

――競争入札ではなく、随意契約で売却したことが問題だとの指摘もあるが…。


 予算決算及び会計令では国有地の売却は原則として一般競争入札で行い、公的な目的のために土地を使用する場合には例外として随意契約も可能となっている。国有地の売却では売却価格も重要な要素ではあるが、その手続きも重要だ。法令上、随意契約が可能でも競争入札を選択することもできる。確かに当初から森友学園への随意契約ではなく競争入札を選択していた方が透明であり批判は少なかっただろうが、随意契約を結んだこと自体は判断として不自然とまでは言えない。しかしやり方がまずかった。

――今回の売却手続きでの問題点はどこか…。


 今回は売却額の基準として約9億5000万円という不動産鑑定価格があり、ここからゴミ処理費用として約8億円を差し引いて森友学園に土地を売却している。埋没したゴミの処理にどの程度の費用がかかるかは実際に作業をしてみなければわからないはずで、本来は費用を実費で事後に精算するという形にすべきだった。それができないのであれば可能な限りの厳格な積算と事後のモニタリングを徹底するしかない。それができていたのか、が本来的な争点である。どうもこの辺が曖昧にされている感がある。国はごみ処理費用のリスクをどう捉えていたのか、よりクリアな説明が欲しいところである。そういった手続きと説明の甘さが「忖度」疑惑を生み出している。

――国有財産の売却で不正を防ぐにはどうすればよいか…。


 不正を防ぐためには、徹底した情報開示による透明性の確保が必要だ。報道によると、近畿財務局は当初は森友学園の求めに応じ、契約情報を非公表としていたという。情報が公開されなければ国民はそもそも問題に気付くことすら出来ないため、相手方が公開に同意しなかったら非公表という実務は改めるべきだ。財政法の第9条では、国の財産の譲渡や貸し付けについて適正な対価を求めている。会計法や予算決算及び会計令では公用の事業に供するためには随意契約を結ぶことが認められているとはいえ、原則としては競争入札が要請されていること、財政法でも適切な対価を求めていることを踏まえて随意契約についての透明性確保の議論が行われるべきであろう。国民の全体的な意識として歳出を減らす話には厳しい目線を注ぐ一方、国有地の売却など収入を増やす方にはさほど関心が高くない。日本の厳しい財政事情を勘案すると、国有地をきちんと適切な価格で売却することは極めて重要だ。今回の騒動をきっかけに、国有財産の有効利用に対する国民の関心が高まることを期待している。