日本の核武装は非現実的

日本の核武装は非現実的

拓殖大学
総長
森本 敏 氏


聞き手 編集局長 島田一

――現在の国際情勢をどうみるか…。


森本 深い昏迷状態にあるのが実態だ。こうした不安定状況のきっかけになったのは2014年にロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部に軍事介入したことで、更に2015年以降、にシリアの内戦にも介入して、第二次世界大戦後にスターリンが行ったように、周辺国に軍事力をもって影響力を拡大する態度をはっきりと示した。また、同時期に中国も周辺海域に進出し、国連海洋法条約仲裁裁判所の判決も無視して、南シナ海で埋立てや軍事力の配備を進めた。いわば両国は力の行使によりステータス・クオ(現状)の変更を推し進めている状態だ。両国は国連安全保障理事会の常任理事国であることから、両国に不利な安保理決議の採決は難しく、国際社会は有効な対抗手段を打てないでいる。オバマ政権が両国の挑戦に対して、断固とした対応にでなかったことも混迷を深める要因となってきた。

――北朝鮮問題への注目も高まっている…。


森本 北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発は2016年に大幅に進展し、1月に4回目、9月に5回目の核実験を実施したほか、10月までに合計23発の弾道ミサイルを発射した。その後は今年2月までミサイル発射を控えていたが、北朝鮮側は公的には明らかにしていないものの、我々は米大統領選挙を意識したことが理由とみている。トランプ米大統領は選挙期間中、金正恩氏といずれ話をする必要があると発言しており、北朝鮮側は米朝首脳会談実現を期待して挑発を控えたのだろう。ただ、その後は今年2月12日の日米首脳会談中にミサイル発射を再開し、再び弾道ミサイル開発技術の向上にまい進する姿勢を露(あらわ)にしてきた。

――北朝鮮の核戦力の現状は…。


森本 既に弾道ミサイルに搭載可能なレベルにまで、核兵器の小型化・弾頭化に成功している可能性があると考えられる。アメリカとしても北朝鮮問題を軍事力で解決するリスクがあり、このためオバマ政権は国連安保理決議による経済制裁を実施した。この制裁は弾道ミサイル開発のための資金や資源、技術が北朝鮮に流入することを防ぐことを目的としたが、現状でも北朝鮮の技術開発が進展していることから、制裁の実効性が疑わしい状況となっている。しかし、制裁を履行していない証拠を見つけることは難しく、また証拠があったとしても、違反行為に対する制裁を行うのは難しいのが実情だ。

――カギを握るのは中国だ…。


森本 最大の支援国である中国の動向が重要であるのは確かだ。米中首脳会談でもそのことが大きなテーマになったとみられる。ただ、北朝鮮への支援凍結を行うとすれば、その見返りに、中国は高関税適用の回避の確約や、南シナ海での活動の自由を米国に要求する可能性もあった。また、日本にとっても他人事ではなく、例えば支援凍結の見返りに南シナ海や台湾での中国の自由をアメリカが保証すれば、日本にとっては大問題だ。日本としては常にアメリカに対して、日本と協議したうえで中国と取引することを求める必要がある。4月6日から7日に行われた米中首脳会談に先立って、安倍首相は6日にトランプ氏と電話会談を行ったが、おそらく日本の立場を配慮するように申し入れたのではないかと思う。

――トランプ政権下で米国外交はどう変わったのか…。


森本 外交上の特徴としては、1対1の交渉を好むことが挙げられるだろう。安倍首相との会談もそうだし、ドイツやカナダ、中国やイスラエルとの首脳会談も個別に行った。このため、自国以外との他国の関係や、幅広い多国間外交の方針は分かりにくいのが実態だ。しかも、現在は国務省を始めとする政府の政治任用ポストが埋まっていないため、日本としては協議を行おうにもカウンターパートが存在しておらず、ますます米国の方針がわかりにくくなっている。一方で明らかになっているのは同盟国に対して負担増を求める方針だ。既にアメリカはNATO加盟国に対して、防衛費をGDP比2%に引き上げるよう強く求めているが、今後は日本にも同様の要求を行ってくる可能性が高い。日本の場合、現状の防衛予算はGNPのおよそ1%程度なので、もし2%を達成するならばほぼ倍増させなければならないが、現状の財政を踏まえると早急な実現は非現実的だ。

――しかし行わないとアメリカは許さない…。


森本 現在、自民党が北朝鮮の弾道ミサイルや中国の活動に対応するための対応策について議論を行っているが、それらの対策を実行すれば、何兆円ものミサイル防衛システムや戦闘機をアメリカから購入することになる。すぐに防衛費を倍増することは無理でも、それだけ大規模な具体的金額を示せば、米国をある程度説得できるだろう。ただ、今後は「アメリカ・ファースト」の理念の下、アメリカは常に雇用創出を最優先する以上、経済と安全保障が不可分の問題となることを日本は十分意識する必要がある。現状では交渉相手が存在しない以上、事前調整も難しく、日米高官の会談は毎回が致命的なものになりかねない。今後、安倍政権はそうした会合を一つ一つどう切り抜けていくか熟慮する必要があり、森友学園のような問題にかまけている暇はない。

――ミサイル対策を急ぐべきでは…。


森本 危機が差し迫っているとはいえ、対策は1日ではできないのが現実だ。ミサイル防衛は複雑で高額なシステムであり、日本中に配備するにはお金と時間が必要となる。また、ミサイル防衛にも限界があり、数発であれば確実に迎撃できるが、例えばある特定の目標に対して同時に多数発射された場合、全てを払い落すことは困難なのは確かだ。ただ、だからといってミサイル防衛の代わりに核兵器を保有するべきという意見には賛成できない。そもそも国民の大多数の理解を得られない可能性が高いし、もし支持されたとしても、開発を開始したらNPT(核不拡散)条約違反となり、翌日からウラン燃料の輸入が停止する。未来永劫に原子力発電を放棄する決意を行ったのなら別だが、あまりにもデメリットが大きすぎるだろう。

――日米同盟にも影響が生じる…。


森本 日米安保条約は核の抑止をアメリカに依存することが前提であるため、日本が単独で核開発を推し進めようとすれば、当然条約は破棄されるだろう。トランプ米大統領は選挙期間中に日本も核兵器を保有すればいいといったが、あれは言葉のあやのようなもので、アメリカの本意ではない。無理に核開発を行えば、最低でも経済制裁を受け、輸入も輸出も行えなくなり、日本国民は極貧生活を強いられる。更に、日米安保条約が破棄されれば、中国がたちまち日本に圧力をかけてくるだろう。もし核開発に成功したとしても、すぐに中国の巨大な核戦力に対抗するのは不可能であり、日本は中国の圧力に屈さざるをえなくなるだろう。このように、核武装は現時点ではとても現実的な政策オプションとはいえない。現在の国際情勢では、短絡的な手段に頼るのではなく、広い視点から政策オプションを模索する必要がある。それは針に糸を通すような細い道を探すことではあるが、「殴られたら殴り返す」ような短絡的行為は日本の利益を損なうばかりだ。

――アメリカを説得できないか…。


森本 少なくとも現状では、日本の核武装をアメリカが受け入れることはないと断言できる。アメリカ側では、日本が敵基地攻撃能力を保有することにさえ批判があるほどだ。彼らには、これまで70年以上日本を守ってきたのはアメリカであり、自分たちが戦死者を出しながら国際秩序を守ってきたおかげで、自衛隊に一人も戦死者が発生していないという自負がある。そんな彼らに、突如日本に防衛上のフリーハンドを認めさせることは難しい。必要なのは、現実的に可能なことから少しずつやっていくことだ。中国は着実に軍事力を拡大しており、間もなく第2、第3の空母を就役させてくるはずだ。これに対抗するためには、日本側も防衛力を強化しなければならない。私が提案しているのは、垂直離着陸能力を持つF-35B戦闘機を搭載できる4万トン級の強襲揚陸艦を2隻建造し、東シナ海で日本のプレゼンスを高めることだ。日本は急に政策を変えることができない国ではあるが、足元の国際情勢は緊迫しており、日本に対して発生しうる危害に対して、国家の防衛体制をどう整えるかを議論していく必要がある。