社員の質を圧倒的なクオリティNO.1に

社員の質を圧倒的なクオリティNO.1に

大和証券グループ本社
代表執行役社長 CEO
中田 誠司 氏


聞き手 編集局長 島田一

――証券市場が目まぐるしく変化している…。


中田 確かにフィンテックやAIなど様々な次世代技術が広がってきているが、現状は少し言葉が躍っているようにも見える。ただ、ブロックチェーン技術など決済系の技術がビジネスで活用されるようになると、影響が出てくるのは我々ではなくおそらく銀行となるだろう。我々はコンサルティングをビジネスの主体としている。これはアナログの世界になるため、AIやフィンテックにすべて取って代わられる領域ではない。我々としてはむしろAIやフィンテックを、社内の業務効率改善に活用することに主眼を置いている。例えば、コンタクトセンターにおけるAI受電やコンプライアンス部門におけるモニタリングチェックでは、何らかのキーワードをAIに設定すれば、一定量の業務効率化が図れると踏んでいる。今の20~30歳代はデジタルネイティブと呼ばれているが、日本の人口動態と資産移動を考えると今後20年間程度は60~85歳に資産が滞留する。60歳でもITリテラシーの高い方も一部にはいらっしゃるが、高齢者の方々を主軸としたときに、その方々の理解を超えるような技術を用いたとしても仕方がない。このため、あくまでもリアリティをもったAIやフィンテックの活用を考えている。

――とはいえ、ネット証券に次いでロボアドによる自動運用サービスが台頭しつつあるなか、対面営業のコスト高は否めない…。


中田 私はそうは思っていない。確かにそういった運用手段を良しとする人もいらっしゃるので、我々もAIによるアドバイスを提供するファンドラップオンラインを始めている。しかし、60歳を超えた顧客のニーズは、単純に資産を増やしたいというよりは、守りたい、繋げたいというニーズに変わっていく。そのニーズに対してAIが複合的なアドバイスを提供することは難しいだろう。つまり、アナログの、フェイス・トゥ・フェイスの営業に対するニーズが根強く残ると考えている。

――20~30歳代はまだメインの顧客層ではないと…。


中田 そうは思っていない。しかし、20~30歳代がメインの顧客層になるのは30年後以降になる。お金を使う世代でもあるため、多少の金額をインターネットやロボアドを駆使して投資を行ったりもするだろう。しかし、もしこの世代が50歳、60歳を迎え、相続によりまとまった資産が入ってきたとなれば、従来通りロボアドを使って一人で資産を運用するかどうか。これはやらないだろうと見ている。プロである私でもロボアドやAIを使って自分一人だけで資産運用するということはないだろう。やはり、そこはしっかりとした相談相手を見つけて、運用するということだ。

――今後も富裕層向け営業に注力していく…。


中田 そういうことになる。日本の富裕層は海外のプライベートバンキングが対象としている顧客とは異なり、広く浅い、いわゆるマス富裕層という言葉がふさわしいだろう。一方、銀行預金の比率を見てもわかるように、また、当社においても全都道府県に支店を配置してはいるものの、東名阪などの都市部を除くと1県1店舗しかない。カバー率を考えればまだまだ開拓の余地は十分ある。ただ、そこを開拓していくために支店を増設するといったコストをかけるようなことはせず、衛星店舗、つまり営業所ベースで出店数を増やしていく。現在、当社支店数は118カ店だが、5年前から変わっていない。ところがその期間中に営業所数は、このほど開所するひばりヶ丘営業所まで合計30カ所と増やしている。営業所は、店頭があるわけではないため、駅前の1階の一等地である必要はなく、雑居ビルの3階や4階などいわゆる空中店舗でも良い。また、少数のお客様に対応できるスペースに、パソコン環境が整備されていればよく、それだけでエリアのマーケティング活動が可能だ。支店と比べるとローコストオペレーションが可能となる。今後も人口動態と当社のカバー率を総合的に勘案しながら、営業所を中心に拡大していく方針だ。現在、開所の準備をしている営業所は10カ所、さらに開所を検討している案件は10カ所ある。現在、支店と営業所を合わせて148拠点だが、将来的には170~180拠点まで増やすことになるだろう。

――支店の裁量を拡大するという改革を始められた…。


中田 社長が替わったから急に方針が変わったというよりも、ターニングポイントだったというほうが適切だ。当社は業界に先駆けて資産導入・純増営業に舵を切り、またコンプライアンスの整備も先行して進めてきた。そして肝となる営業員の教育も進めてきた。この流れのなかで新しい証券営業の教育を受けてきた若い世代が営業員の半数を占めるまでに至った。また、前社長の日比野と私の考え方が異なるという話でもない。日比野も同様の考えを持っていたし、私が社長に就任するまでの2年間リテール部門を担当していたこともある。そういったいくつもの要素が重なり、いよいよもって機が熟したと考えた。この点、決して金融庁のフィデューシャリーデューティーにおもねいたものでもない。ただ、こういったパラダイムチェンジは功罪がどう出るかわからないため、本部長クラスではできず、やはりトップがコミットしなければならない。機が熟したなか、たまたま私が社長になったこともあり、断行したに過ぎない。

――早速いろいろな成果が出ている…。


中田 例えば、5月の外国株式の新規口座数が過去最高を記録したうえ、相当額の買い越しを記録した。米国株高というマーケットの状況に、顧客ニーズが反応したためだ。従来の営業方式であれば、米国市場が好調でも、販売しなければならない商品を優先しなければならず、その商品に営業活動時間が取られてしまっていた。今回の改革で、ある程度フリーハンドでやれるようになったため、即座に舵を切れた。これまで販売していた商品の売上が落ちたとしても、トータルで考えればマーケットとお客様のニーズに合わせた方が良いと考えている。

――今後の海外展開はどう見ているのか…。


中田 世界のバルジブラケットやリーマンを買収した野村ホールディングスなどとはビジネスモデルが異なり、主戦場は国内で、その国内のビジネスをさらに拡大するために必要な機能をきちんと海外に持っていくという考えだ。日本株の営業はその一例と言えるだろう。ただ、そうは言っても欧州、米国などではすでに何十年も店を構えているし、我々の身の丈に合った海外ビジネスもきちっとやっている。今後も巡航速度で進めていこうと考えている。一方、M&Aについては少し違う考えを持っている。世の中にこれだけM&Aのニーズが高まっているため、ある程度強化してもいいと考えている。8年前に買収したクロースブラザーズのM&A部門(現大和コーポレートアドバイザリー、DCA)がうまく回り始めており、昨年度の海外部門収益に大きく貢献した。DCAは欧州のミドルキャップ(5億ユーロ以下)のM&Aのリーグテーブルで3位に位置している。当社が目指しているところは、バルジブラケットのように何兆円規模のディールのフィーを取りに行くのではなく、ミドルキャップをターゲットとし、マーケットをしっかりと取りに行く姿勢にある。そういった意味では、アジアが重要となる。すでに我々はアジア各国の金融機関とアライアンスを結びIBビジネスを進めている。一方、若干力が足りていないと感じているのは米国だ。米国は世界のM&Aの最大大国だが、当社がM&Aに割いている人員は欧州が最も多く、市場の規模に対して米国は少ないことから買収も選択肢に入れた補強を行っていく方針だ。現在、米国ではセージェント・アドバイザーズと資本業務提携しているが、この提携を深堀するほか、場合によっては先方と合意の上、第3者をジョイントさせる方法もある。ただ、米国でも目指しているのはミドルキャップ市場だ。

――海外M&Aビジネスにおいては働き方改革の影響が懸念される…。


中田 全面的に残業を禁じている訳ではない。リテール部門においてはクロスボーダーの案件がある訳ではないため、19時前退社を遵守させている。ホールセール部門においては、ディールによって夜中に海外とやり取りしなければならないこともあり、これは責務として当然ながらきちんと仕事をしてもらう。ただ、その場合はしっかりと月間の残業時間内に留まるように代休を取ってもらい、トータルで調整できるよう指示している。

――御社は働き方改革では証券業のみならず日本企業のなかでも先行している…。


中田 今でこそ働き方改革と、国策となってはいるものの、先見の明を持っていた鈴木社長時代から様々な改革を進めてきた。その甲斐もあり、今年の新入社員数はグループ全体で678名、大和証券では582名となったが、大和証券の582名中、女性社員は半数に上っている。女性が働きやすい企業だという認識が広がっていると感じている。

――財務面での課題は…。


中田 課題が無いのが課題という側面はある。当社はメガバンクや野村ホールディングスと比較して自己資本規制比率が高い。それはそれでいいのだが、資本の中身がほとんど中核資本、つまりTier1となっている。そのため、Tier2を使った機動的な財務戦略も可能だ。今のところ具体的な戦略があるわけではないが、例えば2000億円程度のM&Aを実行した場合、その分がリスクアセットとなり自己資本規制比率は下がるが、同額のTier2を発行すればよく、その点では選択の自由度がある。自己資本規制比率が高く、中核的自己資本がほぼ100%というメリットを活かせるポジションにある。

――今後の抱負をお聞かせください…。


中田 当然、継続的に業績を上げていくことが社長としての最大の責務だと考えている。業績を上げるために重要なステークホルダーはお客様であり、そのお客様から収益をいただくのは社員だ。今までもそうだったように、やはり社員によりフォーカスし、社員のロイヤリティ、モチベーションを上げていくような施策を打っていきたい。そこに関しては飴ばかりではない。私は就任にあたり、圧倒的なクオリティNO.1を目指すことを明言した。NO.1を目指すには、勉強や、OJTでスキルを磨かなければならない。また、絶対にルールを守るという強いリーガルマインド、常にお客様を優先する強い顧客マインド、そして仕事に対して高い目標を持ち、その目標を何が何でもやり遂げるという強いセルフマインドをきっちり根付かせる。そのためには社員も相当の努力をしてもらわなければならない。そして社員のクオリティを圧倒的に業界NO.1に持っていきたい。