一帯一路、日本企業も参加を

一帯一路、日本企業も参加を

東京大学
社会科学研究所 教授
丸川 知雄 氏


聞き手 編集局長 島田一

――中国の一路一帯構想をどう捉えているのか…。


丸川 日本国内での一帯一路構想の受け止められ方の一つの典型例として、地政学的に見て太平洋は環太平洋戦略的経済連携(TPP)で固められたため、中国がそれに対抗するために欧州へつなげて支配領域を広げようという見方がされている。このため、かつての東西冷戦のアナロジーと同じく、向こう側で起きていることだから関係ない、どうせビジネスチャンスも中国企業が全部取るのだろうと、すごく冷えた見方になってしまっている。中国のなかでそういう地政学的な考慮が働いていないとは言い切れないが、少なくともTPPと同じ土俵のモノではないと言うことができる。TPPでは貿易自由化よりも、ルールが重要視されている。いみじくもオバマ前大統領が言ったように、中国みたいな国に国際ルールを作らせない、ルールは我々が作るという意気込みでやっていたため、TPPがカバーする範囲は非常に広い。一方、一帯一路がこれに対抗するものかと言えば、そもそもルールを作る訳ではなく、インフラを作るだけであるため性質は異なると言える。

――中国に対する見方が偏っていると…。


丸川 思うに欧米は自分たちがルールを作っているという意識が高い。関税および貿易に関する一般協定(GATT)や国際通貨基金(IMF)から始まり、世界経済の規則を作り、ガバナンスするシステムを構築したという経験があるためだ。一方、中国は長らくその外側におり、ここ20年間くらいはそういった欧米が作り上げたシステムに便乗し、グローバルリズムに乗ってきている。その姿勢が変わっているかというと変わっていない。最近でもIMFの出資比率を上げるとか、人民元をSDRを構成する通貨のなかに入れてもらうなど完全にIMFのルールの中で中国のポジションを上げていこうと試みている。つまり、IMFをもう一つ作ろうという意図はない。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)については公的ではあるものの、アジアのインフラ融資を主眼としているためIMFほどのものではない。アジア開発銀行(ADB)との関係についても、アジアの数兆ドルとも言われている巨額のインフラ需要に対し、ADBとAIIBは数百億ドル程度の規模に過ぎない。この点を考えれば競合のしようが無い。AIIBは当面はADBや世界銀行を真似ながら、自分たちの損が出ないような運営をしていくと考えられる。

――日本企業は参加を諦めている…。


丸川 一帯一路もAIIBもルールを自分たちで定め、支配しようとしているのではなく、インフラを作るという実務に徹している。すなわちTPPやIMFに対抗するものではない。インフラを作れば日本の企業や国民も利用できるはずだ。安倍首相が一帯一路に日本企業が参加することを妨げないと表明したが、そもそも日本政府が日本企業が参加すべきだとか、すべきでないとかいうべき立場にない。日本の多くの企業は国有企業ではないため、政府の意向を伺う必要はなく、日本政府がどうこういう話ではないということだ。仮に中国企業の力によって道路や港湾ができたとしたら、それを活用すればいいだけの話だ。もう少し言えば中国主導で独自にインフラ開発を進め、後から日本も参加を表明すればいい。その点で言えば日本は完全に受益者になる。チャンスがあれば積極的に建設案件を取りに行ってもいいし、資材納入などで参加すればいい。

――日本企業も恩恵が受けられるチャンスがある…。


丸川 ただ、インフラ整備を行う国々によってはかなりの地政学的意味を持ってしまうという点に気を付けなければならない。一帯一路に一番反対しているのがインドだ。というのは、一帯一路構想の一部に「中国~パキスタン経済回廊」というものがあり、パキスタンで様々なプロジェクトが行われている。インドが最も気にしているのが石炭火力発電所の建設だ。パキスタンはインドと長らく敵対関係にあるが、インドにとって幸いなことにパキスタンは電力不足が災いして余り国力が強くない。ところが、中国の援助によってパキスタンの電力供給能力が飛躍的に拡大すると、パキスタンの国力が強まり、インドにとって望ましくない事態になる。スリランカの港湾事業も同じような思惑が発生している。さらに欧州においても気を付けなければならない。アドリア海のトリエステ港は東欧一帯の重要な物流拠点で、そこに陸揚げされた貨物はスロベニアを通り、ハンガリー、ルーマニア、リトアニア、ウクライナまで運ばれているが、一帯一路の案件としてピレウス港(ギリシャ)開発およびブダペスト(ハンガリー)~ベオグラード(セルビア)の高速鉄道の開発が行われ、新たな物流網が構築される。このため、従来の物流網が使われなくなる可能性がある。一帯一路によるインフラ開発でモノやヒトの流れが変わる結果、さびれる都市が出てくる。さびれる地域やマイナスの影響を受ける国の不満を中国がどう吸収できるかが問われる。

――そもそも投資できるほどの資金はあるのか…。


丸川 中国国内であっという間に高速鉄道1万6千キロを敷設することができたことを考えれば中国の資金力自体は問題ない。しかし、中国単独の力で海外のインフラを建設するのは建設効率を悪化させる恐れがある。例えば、日本の無償援助で現地に学校を作ったとしても、現地の資金が入っていないため、学校が出来上がった後はなかなか継続して運営していかないといった実例がある。現地の側にどうせタダでもらったものだから、利用しなくたって誰も困らないという考えが生まれてしまうからだ。そうならないためにも中国は敢えてAIIBという第3者的な機関を設立し、援助ではなく融資、中国単独ではなく、他国も巻き込んで海外投資を進めることにしたと考えられる。

――世界的に活動拠点を広げている…。


丸川 最近ではナイロビ(ケニア)~モンバサ(ケニア)、アジスアベバ(エチオピア)~ジブチにも鉄道を敷いた。これらアフリカ大陸の鉄道は19世紀にできて以来、整備が行き届いていなかったこともあり、現地では中国による新たな鉄道に対して強い期待を持っている。一帯一路というのは中国~欧州間の物流ルートを作るというだけでなく、むしろ、それを構成するパーツがそれぞれの国の経済発展を促進する意義を持っている。例えば、これらアフリカ大陸に敷かれた鉄道では、運行時間が短くなったために生鮮食品の輸送が可能となるなど経済発展の一助となっている。この点、ケニアの事例では日本の円借款と同様の方式が取られ、インフラ輸出も行っている。

――一帯一路に経済的合理性はあるのか…。


丸川 中国の貿易関係をみると最も希薄なのが欧州だ。そのため中国から欧州への物流網が完成し、移動時間が短縮したとしても運ぶものが増えるとは思えない。むしろ重要なのは一帯一路の端から端までの物流よりも、中間のパーツが各地域の発展に持つ意味である。パキスタンもケニアもそうだが中国の支援で経済発展した場合、中国を外交面でも重視するだろう。とりわけ、欧州連合に入っていないセルビアのように孤立しがちな国が中国との外交的つながりを深めるだろう。一方、ロシアについては、レールの幅がカギとなっている。中国と欧州は標準軌であるのに対し、ロシアおよび旧ソ連諸国は広軌となっている。このため、中国と旧ソ連諸国は車両の積み替えが必要となっている。ロシア側は軌間を変えると、例えば人民解放軍の侵入も警戒されることから軌間を変えるつもりはない。また、欧州に行くと標準軌に戻る。つまり、中央アジアを通ることは現実的には難しい。他方、中国はロシアの中でもモスクワ~カザニの高速鉄道も受注している。それも一帯一路の一部とされているが、高速鉄道でずっと中国までつなぐということは考えていないだろう。中国の狙いは、まずはインフラ輸出、それによって各国の経済発展を促進し、外交関係を緊密化することであろう。