事業性評価で農業を変革

事業性評価で農業を変革

三友システムアプレイザル
取締役相談役 井上 明義 氏
取締役常務執行役員 田井 政晴 氏


聞き手 編集局長 島田一

    ――農林水産分野の事業性評価を手掛ける新会社を設立する…。


井上 これまで不動産鑑定事業を手掛ける三友システムアプレイザル、不動産鑑定で使用した資料を再利用するTASを立ち上げ、2社とも順調に成長してきた。さらに新たなビジネスの立ち上げを考えていた際、事業として農林水産品を取り扱うという発想にたどり着いた。農林水産品は動産の一種であり、近ごろは金融機関も動産を対象とした鑑定を手掛けだしたが、我々としても長らく不動産鑑定事業に取り組んでおり、感覚的には近いものがある。また、農林水産品は生産者である農家や漁業者のほか、大学や研究機関などの研究者、融資を行う金融機関、補助金を交付する地方自治体など産学官の様々な業際が携わっている領域だ。我々がこれまで培って来たネットワークを活かし、様々な業種の企業と連携しながらビジネスの展開ができることも強みになると考えている。新会社については最速で今秋、遅くとも年内をメドに新会社の立ち上げを予定している。

――新会社で提供を予定している具体的なサービスは…。


田井 これまで三友システムアプレイザルが提供してきた商品を下地として、事業性評価を導入しようとしている。事業評価では定量的な面と定性的な面があるが、このうち定量分析は三友システムアプレイザルですでに多くの実績を積み上げている。例えば、土地や建物は国の評価基準が定められており、年間数万件の鑑定を実施している。また、設備については国内基準はないが、米国の基準を援用して会計監査人向けに機械設備の評価を提供しており、定量分析はすでにビジネスとして一通り展開している。このうち、特に在庫の評価となると、原材料仕掛かり品の価値については研究者や実際の従事者、流通会社など様々な関係者から情報を取る必要があり、こうした過程で様々なパートナーが浮かび上がってきた。さらに、金融庁が事業性評価に基づく融資を行うべきという方針を示すなか、我々も事業のポテンシャルの有無といった定性的な面に対する評価を行うことは世の中の流れと合致するというところで今回の創業が出発した。事業性評価では、種苗選定や土壌分析などバリューチェーンの各項目について専門家の所見を頂き、事業のどの過程に優秀性があり、逆に問題があるのかを報告書としてまとめていく。




田井 事業承継自体は農林水産業に関わらず、日本全体の問題だ。このうち、我々が提供する商品はあくまで事業性全般の評価というところに切り込む予定だ。金融庁が打ち出している事業性評価に基づいた融資について、銀行はこの対応に四苦八苦している。実際の事業性評価のベンチマークを見ていると社長のやる気や、全般的なポテンシャル、強み・弱みの分析などの項目があるが、評価に当たっては事業そのものの動きに的を絞った方がよいという点がそもそもの発想だ。我々の事業性評価では、それぞれの農家の生業を専門性を帯びた形で報告書のように仕上げることを目指している。日本の農林水産業を考えると、手厚い公的扶助があるにも関わらず全体として売れ行きは伸びておらず、次世代の若者がこれを継ぐような魅力を欠いている。さらに、農地法や漁業権により新規の参入障壁が非常に高く、疲弊衰退している状況にある。事業継承やファイナンスの面では第1次産業の弱さは顕著であり、まずはこの分野から取り組みを開始していく。

――農産品に客観的な評価を提供すると…。


田井 日本の農産品の品質は優れているので海外に展開していくべきだという意見がよく聞かれる。ただ、実際に海外に輸出している量は少なく、また実際に日本の農産物が全般的に海外で通用するのかという検証も十分には行われていない。逆に、海外ではすでに「グローバルGAP」などの認証基準が設定されてきており、基準を持たない日本が海外に農産物を売り込もうとしてもハードルが大分高くなっているというのが現状だ。そこで、流通業者や販売業者を対象として、農産品の事業性評価書という専門家の所見をまとめたレポートをお届けすれば、役立てて頂けるのではないかと考えている。

――新会社の主な仕入先と販売先は…。


田井 新会社の仕入先は国内外の大学や研究機関だが、これ以外にも光センサーの製造会社や流通会社の研究部門にも協力を了解して頂いており、それを新会社でまとめていく。また、販売先は金融機関や投資ファンド、会計監査法人などを想定しているが、大手流通企業にも要請をしているところだ。流通業者は農業者に対し、食品に加工しやすい果物を作って欲しいなどといった具体的な欲求を抱えているが、現状では農業者がそのニーズに応えられていない。また、農産品の市場価格はJAから出荷されるときに変動するため、長期にわたって安定的に供給されないという問題もある。農業者側にこれを訴えても、「価格が天候によって変動されるのは当たり前」といった答えしか返ってこない。このため、現在の農林水産業の仕組みを変える方法はないかという声は強まっている。

――事業性評価によって、どのように日本の農業の現状を打破していくか…。


田井 例えば、新規の営農希望者や、すでに営農しているが既存の補助金や融資の枠組みのなかでは独自性が出せないという方々には、事業性評価を利用するニーズが十分にある。新規営農希望者の場合、まず2~3年程度の研修を受けて緩やかに業に入っていくというプログラムがすでに用意されているようだが、既存の枠に入れて貰うという色彩が強い。ある日農家をやろうと決意しても時間と心理的コストがかかるほか、そうした人が農地を借りて営農しようとしても融資を受けることも難しい。ただ、特に新規の営農希望者は価格の高いメロンやマンゴーを作りたいなど、従来の農業者にはない野心的な思いを持っている。どんな農産品でも専門性は細分化され、それぞれの分野でサポートしてくれる人がいるため、そうした野心的な参入はチャレンジングではあってもあながち絵空事ではない。もちろん作物に適した土壌を作ったり、環境用のセンサーを設置したりする必要はあろうが、高い値段で買ってくれる最終需要者が見込めるのであれば事業として成立するはずだ。専門家の知見を集めた事業性評価があれば、銀行もリスクを考慮しつつ新規営農者に対する貸付が可能になる。事業性評価は農業の近代化、合理化に資することができるのではないだろうか。

――金融では格付け会社が記号により各企業の信用力を評価しているが…。


田井 農林水産業については、現時点でこれといった認証基準が機能していない。諸外国ではグローバルGAPのような認証は民間の機関が付与することが通常であり、我々も専門家の方々と一緒にグローバルGAPに合致するような新しい国内基準を打ち出していきたい。その結果が農産物に対する格付けのようなものになるだろう。

井上 金融機関は研究所や大学とはほとんどつながりがないが、我々は「このテーマであればこの人」といったように各分野の専門家を熟知しており、これが1つのノウハウとなっている。様々な専門家の知見を集め、1つの書類として提供することは産学連携といった形にもなるし、その中心となるのが我々だ。また、事業性評価を通じて様々なデータが集まってくるため、金融機関等を対象に情報提供を行う会社から研究機関・情報機関そのものに変化していく可能性もある。

――御社が描いている市場規模はどの程度か…。


田井 あまり正確な数字ではないが、国内のGDPのうち農林水産業が占める割合は1%程度、商品の加工や流通といった関連事業含めてようやく10%ぐらいで、農林水産業自体の規模は小さいと言われる。ただ、これには政府の支出が含まれておらず、歪曲された数字なのだろうと思っている。農林水産業の方々の所得の3~4割程度は補助金と言われており、補助金漬けのままでは産業は発展していかない。我々は日本の農林水産業を含んだ業界のGDPに占める規模は拡大していくと考えており、当初からスモールマーケットを構えるということではない。また、農林水産業は部外者にとっては実態が分かりにくく、閉鎖的な印象もある。ただ、当社のように新たな取り組みをすれば、市場は飛躍的に拡大する可能性があると大いに期待している。