日本経済の負の連鎖に歯止め

日本経済の負の連鎖に歯止め

一般社団法人生命保険協会
副会長
佐々木 豊成 氏


聞き手 編集局長 島田一

――生命保険業界の現状と課題については…。


佐々木 他業態の金融機関と同じように、少子高齢化に伴う人口減少は市場規模の縮小という意味では大きな課題だ。ただ、公的保険を支える人口が減少しているため、若いころから年金を自分で積み立てるなど公的保険の補完としての私的保険の重要性はますます高まってきているとも言える。もう1つの課題は低金利下の生保経営だ。生命保険は超長期のストックを豊富に抱えているため、低金利環境でも運用状況が急激に悪化するということにはならない。とはいえ、低金利環境下では新たに貯蓄性の保険を引き受けても顧客に対して十分なリターンを提示することができず、昨年度ぐらいから販売を中止する動きがあった。

――フィンテックへの対応については…。


佐々木 ビッグデータのうち、とりわけ人の健康状況や生活習慣に関する情報については保険と密接に関係してくるため、活用の余地がある。また、生命保険には引き受ける際の審査と保険金を支払う際の審査があるが、この審査に人工知能を活用することもあり得る。保険金の支払いにおける顧客サービスの重要性が益々高まっていると改めて感じている。日本では医療保険が普及してきているが、契約者が生きているうちに保険金が支払われる医療保険では、いかにスムーズに手続きが進み、かつ早期に支払いが行われるのかが大変意識される。生命保険業界としても、勧誘や保険金の支払いを含め、顧客本位の業務運営にしっかりと取り組んでいきたい。

――顧客本位の業務運営態勢は金融庁が強化を指導している…。


佐々木 金融庁は、金融行政について「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成により国民の厚生の増大を目指す」との目標を掲げている。生命保険業界も、日本経済が活性化し成長していくことによって一緒に栄えられるわけであり、こうした国全体の課題を解決するための一翼を担っていると自負している。また、販売手数料の開示については、銀行窓販において市場リスクのある特定保険契約について開示を開始したところだ。開示するか否かの判断は保険会社と実際に保険商品を販売している銀行に委ねているが、生命保険協会は開示に当たって特に留意すべき事項について、参考となる考え方を整理し、昨年秋に各社に対して提示している。

――スチュワードシップ・コードへの対応も求められているが…。


佐々木 生命保険協会では、昭和49年から株式価値の向上に関する調査を実施している。調査では投資家は企業に何を求めるか、逆に企業は投資家に何を求めるかという双方の課題を共有することを通じ、企業の株式価値をどのように高めていくかを考えることを目的としており、これはスチュワードシップ・コードの考え方と非常によく似ている。スチュワードシップ・コードのうち、議決権の開示については取り組みにばらつきがあるかもしれないが、対応は各社に任されており、原則よりも適した方法に変形して実施することは否定されていない。要は投資家と企業が建設的な対話を行い、時には厳しい指摘をしつつも企業価値を上げることであり、そのことが投資家のリターンにもなるということだ。

――国際会計基準の整備も最終段階を迎えつつある…。


佐々木 とりわけ日本の生命保険各社は長期の保険負債を抱えているが、経済価値ベースで保険負債を評価する会計基準に変更されると、金利変動の影響を大きく受けることになる。5月にIASBが公表した「保険契約」に関する国際会計基準では、そうした保険負債の特殊性を踏まえて策定された。今後、IASBでは、新しい国際会計基準への移行に向けた実務的な検討が実施されるが、動向を注視していきたい。

――7月には橋本氏が生命保険協会の新会長に就任した…。


佐々木 新会長の所信では、「安心社会の実現」、「健康長寿社会の実現」、「生命保険業の基盤整備」の3つのポイントを掲げた。このうち「安心社会の実現」では、顧客本位の業務運営の確立と定着を含め、生命保険事業としての役割をしっかり発揮することを目指している。また、「健康長寿社会の実現」では、健やかで心豊かな生活をより長く送れるよう、企業や地域社会における健康づくりをサポートする取組みを予定している。さらに、「生命保険業の基盤整備」では、活力ある資本市場への貢献に向け、改訂版スチュワードシップ・コードの内容を踏まえつつ、企業・株式価値の向上に積極的に取り組んでいく方針だ。

――現在の金融庁の政策に対するご意見は…。


佐々木 持続的な経済成長と国民の安定的資産形成を最終的な目標として目指していくという現在の金融庁の方針については、従来からそうあるべきではないかと思っていたところだ。これまで日本の金融行政は不良債権処理が主要テーマとなっていたが、それが長年続いた結果としてリスク回避の傾向が強まり、結果として日本経済を委縮させてしまうという負の連鎖に陥っていた。日本経済が縮小方向に回転していくことに、どこかで歯止めをかける必要がある。これは特定の業界だけではなく、国全体で取り組まなければいけない課題だ。生保業界も保険の持つ機能を十分発揮することによって、その一端を担っていきたい。