安全保障上の問題にまず対応

安全保障上の問題にまず対応

財務省
国際局長
武内 良樹 氏


聞き手 編集局長 島田一

――安全保障上機微な技術の流出を適切に管理する観点から、今般、外国為替及び外国貿易法(外為法)の改正が行われた。これにより、対内直接投資の事前届出制について、無届けなどの投資に関し、株式の売却命令等を行うことができる制度が導入された。他方で、今回、財務省は、この対内直接投資の事前届出について、審査時に考慮する要素を公表したが、その背景は…。


武内 外為法では、外国投資家による武器の製造業や電気業等の一定の業種に対する対内直接投資について、国内上場企業の株式を10%以上取得する場合や非上場企業の株式を取得する場合に事前届出が求められており、「国の安全」、「公の秩序の維持」、「公衆の安全の保護」に支障を来すおそれや「日本経済の円滑な運営」に著しい悪影響を及ぼすおそれがあるかどうかを法定基準とし、問題がある場合は、投資の変更・中止命令を行うことができることとなっている。ご指摘の通り安全保障上機微な技術の流出を適切に管理する観点から外為法の改正が行われ、国の安全に関するものについて、無届けなどで投資が行われた場合には、株式の売却命令等の必要な措置をとることができるようになった。また、今回、この事前審査の透明性を向上させ、外国投資家の予見可能性をさらに高めるため、法定基準をより分かりやすく具体化した「考慮する要素」を公表した。事前審査における考慮要素が整理されたことで、透明性が向上し、対内直接投資の促進を通じた我が国経済の成長につながればと考えている。同時に、日本経済をかく乱させるような問題がある直接投資にとってはけん制効果にもなると思っている。

――考慮要素の具体的な内容は…。


武内 7つの考慮要素を公表しているが、まず、法定されている「国の安全」、「公の秩序の維持」、「公衆の安全の保護」について、「安全保障関連産業の生産基盤及び技術基盤の維持」や「安全保障上重要な機微技術の流出の防止」等、これらをより具体化している。また、農林水産業など国内事情により自由化を留保している業種について、「食料や燃料等の安定した供給や十分な備蓄、国土保全、および国内事業者の生産活動やその継続性等の確保」と、法律上は明記されていない項目を明らかにした。このほか、投資先企業への影響等を確認する観点から、「外国投資家・関係企業等の属性、資金計画および過去の投資行動・実績等」もチェックしていく。さらに、今後の個別具体的ケースにおいて、上記の考慮要素ではカバーされない点にも対応できるよう「その他、審査で考慮すべきと考えられる要素」を加えている。

――この他、今回は非上場株式についても対応した…。


武内 特定取得の事前届出についての審査の考慮要素も公表した。特定取得とは、外国投資家が他の外国投資家から非上場会社の株式を取得することを指すが、本年の外為法改正において、これまで事前審査の対象外であった外国投資家間での非上場株式の売買についてもきちんと見ていくとの趣旨から、この特定取得が審査付事前届出の対象に追加された。特定取得の事前届出では、「国の安全」を損なうおそれが法定基準となっており、考慮要素でも、対内直接投資と同様に、安全保障上重要な技術の流出防止などを挙げている。

――事前審査の流れは…。


武内 まず、投資の前に届出の事前審査が行われる。届出は事務委任している日銀に提出された後、財務省と投資先の事業に関係する省庁が審査することになる。無届や虚偽の届出などについては、事業を所管する各省庁による業界からの情報収集等を通じて注視する。

――審査基準に抵触する直接投資が判明した場合は…。


武内 投資ができるのは審査終了後となるが、審査で問題が認められれば、投資計画の変更や中止を命じることになる。無届け、虚偽の届出、変更・中止命令に違反して行われた投資に対しては罰則や罰金があり、罰金は、最大で投資額の3倍まで課すことができる。本年の外為法の改正では、国の安全に関するものについて、無届け等の場合に、先ほど申し上げたように、事後的に必要な措置をとることができるようになった。なお、国の安全に関するもの以外のものは、今後の検討課題である。できるだけ足並みを揃えたいとも思っているが、事業の性質を踏まえ、喫緊の課題である国の安全に関するものについてまず対応した形となった。対内直接投資制度を所管する財務省としては、国の安全を損なわないよう必要な規制強化を行うとともに、審査基準の透明化を通じて対内直接投資の促進にも努めていきたい。

――マネー・ローンダリング対策との共通点は…。


武内 マネー・ローンダリング対策は、これに取組む主要国政府による枠組みであるFATF(金融活動作業部会)の勧告が国際基準となっており、190か国以上の国がこの勧告の遵守に取組んでいる。この勧告の実効性は、FATF加盟国同士による相互審査で担保しており、日本は第3次勧告に対応する第3次審査を卒業し、第4次勧告に対応する第4次審査を2019年から2020年にかけて受けることとなっている。このFATF勧告においては、政府による対応に限らず、金融機関等の民間事業者による対応が重要となっており、関係省庁等と連携し取組を進めているところである。このFATF勧告も踏まえて実施しているマネー・ローンダリングに関する規制と外為法で対応している対内直接投資規制とでは、資金の流れに着目している点では共通しているが、光をあてる角度が違っている。すなわちマネー・ローンダリング対策は、そもそもその資金がどのように産み出されたかに着目し、犯罪収益の出所がわからないよう事実を仮装したり、犯罪収益を隠匿したりすることを防ぐものであるのに対し、対内直接投資の場合、どのような資金であるかを問わず、国の安全などの審査基準に抵触するような投資であってはならないとするものである。このためマネー・ローンダリング対策は金融機関等による取引時の確認等により民間事業者による協力も得つつ対応しているところである。他方で、海外からの投資は、無数にあり、かつ多様であることから、民間事業者の資金決済における規制が必ずしも有効であるとは限らない。なお、対内直接投資規制については、日本国内への直接投資が基本的には日本経済の発展に寄与するものであるとの視点を忘れてはならない。したがって、日本に投資を考えている企業の母国が、日本からの投資についてより厳しい規制をしていたとしても、ただちにその国の企業からの投資をより厳しくするべきであるという議論については慎重に考える必要があると思う。日本の対内直接投資の規制はあくまでも、その投資が我が国に害悪を及ぼさないかという観点から審査することが重要であろう。

――対日投資の魅力を高める取り組みは…。


武内 何よりも日本経済の競争力を強化していくことが重要であり、特にアジアの成長を日本に取り込んでいくという発想が有用ではないか。通貨政策を担当している立場から、本年6月の外国為替等審議会では「円とアジア通貨の利便性の向上」という方向性を打ち出した。円の利用を強制することはできないが、円の利便性を向上させる余地はまだある。例えば、アジアへの円送金を即日で行えるようにすれば、外貨には慣れていない中小企業のアジア進出を後押しできる。また、アジアの国々では、貿易決済等でドルではなく自国通貨の利用を促す動きがあり、今後、邦銀や日本企業のアジア通貨の調達を容易にする施策も重要になってくる。また、危機対応という面では、アジアのドル依存脱却の進展を視野に入れて、日本とアセアン諸国の二国間通貨スワップにおいて、ドルのみならず円でも引き出し可能とする提案を行ったところである。より中長期な課題としては、東京の金融市場でアジア通貨を含めた多通貨決済の可能性を検討するなど、円とアジア通貨の相互の利便性を高めるための金融インフラ強化を検討していきたい。こうした取り組みによって、アジアと日本の経済連携が進み、結果的に日本経済の魅力向上、投資拡大につながっていくのではないか。