国際情勢とニーズの変化に対応

国際情勢とニーズの変化に対応

公益財団法人 国際金融情報センター
理事長
玉木 林太郎 氏


聞き手 編集局長 島田一

――OECD(経済協力開発機構、本部パリ)事務次長の任を終えて3年ぶりに戻られた東京の印象は…。


玉木 街の雰囲気はすこし年を取ったな、子供が減ったなという印象を受ける。一方で社会が成熟し優しくて快適な社会が実現しているようにも感じる。このコージーな社会(地域社会が親密である社会、居心地が良い社会)を捨ててニューヨークやロンドンに行きたいという日本人が減っているということも理解できる。こういった豊かさがいつまでも続けばいいなとは思うが。しかし別の側面として、世界の問題意識と日本国内の問題意識が、昔よりもさらにずれているなという印象も受ける。財務官をしていたころに痛感したが、世界の政治家、当局者、人々が何を考え、何を心配しているのかは、東京に居るとなかなか実感しにくい。財務官としては月に何度か海外に出かけていたが、東京に帰って何日かすると霞がかかったように海外のことがわからなくなったものだ。そこである時、大臣にパリ駐在を嘆願したことがあるが、「パリに行きたいからそういうことを言っているのだろう」と笑われたものだ(笑)。例えば、2008年の世界金融危機後、ロンドンでも銀行の焼き討ちが発生するなど欧州が大きく揺れていた。人々がウォールストリートやロンバートストリートへのベイル・アウト(救済)に対して怒っていた。我々も1997年の銀行救済の際に銀行批判が起こった経験はあるものの、当時の欧米人の怒りがどのくらいのエネルギーとなっていたのかは、現地に飛んで見なければ分からなかった。普段はゴシップ記事を取り上げている現地のタブロイド紙でも銀行に対する怒りが紙面全体に満ちていることを確認し、ようやく欧米の銀行に対する国民の怒りを実感できた次第だ。これに対し今の日本は、単に静かというだけではなく、人々は親切だし、システムはきれいに動いているなどいい側面もあるが、世界の動きに対する感覚を鋭くし、大きな経済・社会構造の転換に遅れを取ることのないよう注意が必要だ。

――そういった日本人の危機意識の欠如に対応する情報も日本では乏しい…。


玉木 当センターを1983年に設立した際は、特に日本の金融界が盛んに行っていた外国のソブリン(国)への貸し付けのリスクを的確に会員の皆様にお伝えすることを目的としていた。当時は中南米を中心に生命保険会社などが融資を行い、焦げ付きもあったので、こうした情報が求められていた。このため、今でも会員は金融機関が中心で、国別のソブリンリスクの情報を重点的に提供している。ただ、日本の金融機関によるソブリン向け貸し付けはだいぶ減少しているなか、利用する側にとっての我々への期待も変わってきているのかもしれない。こういった需要の変化を的確にとらえ、提供する情報も多様化していかなければならないと考えている。この点、ソブリンリスクを骨格としつつ、金融を巡る新たな議論などへ幅を広げていく。例えば、グリーンファイナンスについては世界の金融界は、生保、損保、運用会社を含め重大な関心事の一つとなってきているが、日本国内での関心はまだ薄い。こういった新しい課題についても対応していきたい。

――国際情勢とともにソブリンリスクも急激に変化していく可能性もある…。


玉木 言うまでもないが、金融の世界ではマーケットのグローバル化の影響を大きく受けるようになってきている。1997年のアジア通貨危機は国単位の危機だったが、2008年のリーマンショックによる世界金融危機は世界全体の危機となった。初めは米国発の危機だったが、国境など関係なく、あっという間に世界中に波及した。このため、今の金融市場のリスクは国別でみてもわからないという側面もある。しかし、金融界が考えなければならない切り口は、やはり1980年代、90年代とは大きく異なってきているということは言える。また、為替、債券、株式市場の融合も進んでいる。これにコモディティ市場なども含めながら統一的に金融商品を見ていかなければならない。グローバル化の進展および金融市場の統合も進んでいるなか、構造的な問題を検討し、長期的な視点をもって投融資に値する情報を提供していきたいと考えている。

――組織の概要は…。


玉木 全体で50名ほどの組織で、ブリュッセルとワシントンに事務所を設けている。基本的には国別で分かれている。国別のレポートは非常に重要で、専門家による定点観測としてのデータは国際的な金融ビジネスには必要不可欠だ。ただ、会員の皆様の満足度をさらに上げるために会員のニーズをしっかりと把握していく必要がある。このなか、比較的新しい仕事としてマネーロンダリングに関する情報提供に取り組んでいる。このようになるべく広い視野でお役に立つような仕事をしていきたいと考えている。