支店長格差など新たな課題に

支店長格差など新たな課題に

野村証券
代表執行役社長
森田 敏夫 氏



聞き手 編集局長 島田一

――4月に社長に就任されてこれまでの感想は…。


森田 就任してから、まずはお客さまにご挨拶させていただくため、ひたすら全国を走り回っている。今年4月から、営業部門において地域ごとに担当役員を置いて統括する従来の「地区制」を廃止した。支店長が地域特性に合わせた営業戦略を独自に展開できる体制としたことに伴い、支店長のマネジメントが非常に重要になってきている。このため、お客さま訪問のために出張した際には、当地の支店長を招集して、少なくとも3時間程度かけてミーティングを行っている。現在、全国に158の本支店があるが、これまでに9割方の支店長とじっくりと話し合うことができた。地区制廃止について支店長からは前向きな声が多く聞かれ、皆、自分たち自身が頑張らなければならないという強い思いを持って支店経営に取り組んでいる。一方で、支店長によってマネジメントに差が出てきていることも実感した。この差をできる限り埋めることが私の仕事だと認識している。

――営業部門を変革された狙いは…。


森田 2012年に経営陣を刷新し、永井がグループCEOに、私は営業部門のヘッドに就いた。その時、永井と私は、「お客さまのニーズや悩みが変化している一方、我々はその変化に対応できていない」という思いを抱いていた。またお客さまのニーズや悩みは従来よりも大きく、また深くなってきているため、本当の意味での信頼を勝ち得なければ相談していただけないと感じていた。例えば、個人のお客さまは、本当に年金を満額受給できるのか、退職金で残りの人生を豊かに送ることができるのか、と長生きへの不安や相続の問題を抱えている。法人のお客さまは、そこに事業承継の悩みも加わることになる。お客さまの悩みは有価証券等の金融資産のみならず不動産も含めた全資産が絡み、またお客さまの人生という長い時間軸の話になる。そのため、対面でお客さまのお話を直に聞きながら、一人一人のライフステージに合わせた、きめ細かなコンサルティング営業に変革しなければならなかった。

――ビジネスモデルの変革に不安はなかったのか…。


森田 このビジネスモデルの変革は業態そのものが変わる可能性があり、大変なことだと考えていた。そのため、5年前に真っ先に取り組んだのは、社員の意識改革だった。当時、支店長や部長を集め、ビジネスモデルの変革の目的や意義について長い時間をかけて議論したが、皆が納得するためには必要なことだった。営業部門の全社員にメッセージを直接伝えることは非常に難しいが、変革の背景について社員が理解を深め、行動に移せるよう、私だけではなく役員や支店長からも社員とコミュニケーションをとってもらうようにお願いした。こういった腹落ちのための取り組みを重ねていったが、これだけでは従来のビジネスモデルからの変革はできないため、次は体制整備を行った。商品に関しては、人生という長い時間軸でお客さまが全資産を運用できるような受け皿を用意する必要があり、それに適しているのは、投資信託による中長期のポートフォリオの構築や投資一任サービスの提供だと考えた。投資信託については従来、ほぼ毎月のように新商品を設定していたが、このままでは乗り換えが進みがちになり、中長期のポートフォリオ構築とはならなくなる。また新商品といってもカテゴリー的に本当に無い商品なのか、トラックレコードがないものを引っ張り出すのはいかがなものかという観点からも新しい投資信託を毎月のように提案することを原則やめることにした。当時、収益の多くは売買中心にあったため、この決断には反発があったが、皆を説得した。組織に関しては、お客さまの深い悩みに寄り添ったご提案ができるよう、2014年に不動産業務部を新設した。2015年には資産・事業の承継に係る調査・研究を行う野村資産承継研究所を設立し、2016年には相続・事業承継に対応するソリューション・アンド・サポート部などを立ち上げた。加えて、人事評価体系の変更や人事制度の見直しも行った。転勤がある社員は1支店での在任期間を平均3年から5年に延長した。また、最長70歳まで営業できる体制も作った。次々と改革を進めていく中で、最初のうちは「すぐに元の体制に戻すのだろう」という声もあったが、現状に至っては元の体制に戻ると考える人はいなくなったと思う。

――変革の中での課題は…。


森田 コンサルティング営業は高いレベルが要求されるため、個人差がつきやすくなっている。社員それぞれに応じた早急なレベルアップや育成が大事になっている。また、今回の地区制廃止に伴い、今後は支店長間の格差を埋めることも課題となっている。この取り組みの最も重要な点は、お客さまの信頼を得られるかどうかにある。お客さまから本当の意味での信頼を獲得し、野村に相談するときちんと対応してもらえる、とお客さまに思ってもらえるよう継続して取り組んでいきたい。

――AIやフィンテックなどの技術革新への対応は…。


森田 今言われているテクノロジーは、野村証券にとっては極めて相性がいいと考えている。これは、当社が膨大な取引データを保有している点、情報産業であるという点、社内プロセス効率化による対面外交の時間確保という3点が挙げられる。1点目の取引データについては、ビッグデータとも言い換えることができ、これにAIを搭載することで将来予測が可能となる。現在、機関投資家向けに5分後の株価を予測するアルゴリズム取引システム(自動取引システム)にAIを導入し、事業会社の自社株買いなどでも活用されている。2点目の情報産業の観点としては、様々な情報を用いて将来を予測しており、例えば、「野村AI景況感指数」を開発するなど、取引データや様々な事象に基づいた景気予測にすでにAIを導入し、多くの方々から好評を頂いている。3点目は、最も相性の良さが伺えるが、社内プロセス効率化による対面外交の時間確保だ。時代の変化に伴ってお客さまの悩みは深くなっており、我々はその悩みを解決できるような提案を行うことが求められている。テクノロジーを導入して社内プロセスを効率化することで、対面外交の時間が増える。結果として我々のパフォーマンスが上がることになる。また、テクノロジーの導入については、次の3点に取り組んでいる。1点目は、社内プロセスの効率化に関して私が直接担当を置いた。2点目は、私が直接担当者に指示するなど支援している。3点目は、テクノロジーの進化で変化のスピードが加速しており、自社だけでは限界がある。このため、他社と協業できるようにするために金融イノベーション推進支援室を立ち上げ、また金融業界に限らず様々な業種ともお付き合いできるよう、今年の4月にN-Villageも立ち上げた。

――今後の抱負は…。


森田 4月から全国を回っていて気付いたことは、お客さまの野村に対する期待が非常に高いということだ。ただ、この期待というのは裏腹で純粋な期待とまだまだ足りないぞという2つの側面がある。今後も期待に応えて信頼を得ることができれば、我々としても新たな循環が起こり、ビジネスに新たな広がりが見えてくる。そういった循環を起こしていきたい。また、金融庁がフィデューシャリー・デューティーを掲げているが、米国では、命を扱う医者、法律問題を扱う弁護士などとともに、お客さまの資産を預かる金融業者もこのフィデューシャリー・デューティーを果たすことが厳しく求められる立場にあり、尊敬される職業でもある。我々が目指すところもそこにあり、お客さまから信頼、尊敬されるような仕事を目指していきたい。