裁量行政が復活の懸念も

裁量行政が復活の懸念も

新宿経済研究所
代表社員社長 公認会計士
岡本 修 氏


聞き手 編集局長 島田一

――金融機関に対する規制が強まっている…。


岡本 金融庁は地域銀行の有価証券運用についてモニタリングを実施しており、7月に中間取りまとめを公表した。このなかで、金融庁は地銀の過大なリスクテイクに対して問題意識を示している。マイナス金利導入で金利が低下しているなか、高リスク運用により含み損を抱える可能性を懸念するのは理解できる。だが、運用は本来であれば金融機関の自主性に委ねられるべきものだ。既に現行のバーゼル規制では、有価証券によるリスクの取り方で規制が設けられている。もともとは、市場リスクの管理がきちんとできているか確認する枠組みを作り、あとは金融機関の自主性に委ねる趣旨だった。ところが、バーゼル規制に加えて今回問題意識を示したことは、いわば屋上の上にさらに屋上を重ねるようなものだ。

――市場リスクに対するバーゼル規制は厳しい…。


岡本 バーゼル3ではこのほか、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)に対する規制も強化される。運用年限によって異なるものの、現在の規制より厳しくなることは間違いなく、私の試算では、新たなIRRBB規制に基づく金利ショック幅は、現行のアウトライヤー規制の「99パーセンタイル・1パーセンタイル」基準により算出された金利ショック幅と比べ、最大で数倍になる金融機関も出てくると考えられる。また、金融庁は金利リスクのモニタリング手法を見直し、国内基準行に対しては金利リスクの量が自己資本の20%を超えていないか確認する。20%を超えた銀行に対しては、金融庁が「深度ある対話」をするとしているが、20%を超える金融機関が相次ぐのは金融庁でも把握していると思われる。何かあった場合に金融機関に対し指摘ができることになり、20%を超えたところで裁量の余地が出る。これにより、裁量行政が復活する懸念もある。

――金融庁に聞かなければ何もできない…。


岡本 国際的な規制を国内で適用するには、自己資本比率規制に関する告示に落とし込んでいくことになるが、この際に敢えて複雑に記述しているようにも見える。重要な規制が本則ではなく付則の方に書かれているケースもある。非常に複雑なものとなるなか、銀行の実務担当者が絶対に間違えないという保証はない。この点、金融庁が自己資本比率告示に落とし込む前のバーゼル規制の原文を読むと、確かに複雑な計算式や細かい表など、わかり辛い規制が含まれていることもあるが、それでもバーゼルの原文では、できるだけフローチャートや設例などを使い、読む人にわかりやすく説明する努力もしている。その意味で、金融庁の告示などを読んでいると、少なくとも「簡潔、明瞭に記載する」という点ではゼロ点であり、金融機関の実務担当者に対して不親切というほかない。

――大手行に対するTLAC(総損失吸収力)規制については…。


岡本 グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)に課されるTLAC(総損失吸収力)規制は、国際合意で決まった以上、大手行も従わざるを得ない。この点、国内の大手行と金融庁は、このような国際合意に上手く付き合っていると言える。TLAC規制では、G-SIBsに対し損失を吸収できるTLAC適格の商品を22年から18%以上確保することが求められる。日本では金融庁が預金保険の仕組みを「外部TLAC」として最大3.5%までカウントすることを容認する方針を示しているため、実際は14・5%の発行でよいことになる。ただ、実際に金融安定理事会(FSB)が公表したTLAC要件を読んでいると、自己資本以外のTLAC適格金融商品に損失を吸収する能力が本当にあるかどうか、私は疑問視している。

――規制強化に加え運用難が続くなか、地銀が取り得る対応策は…。


岡本 地銀が取り得る選択肢としては2つある。1つは、単独での生き残りを果たすよう、より洗練された有価証券運用をすることだ。例えば、本業の融資や、投信の販売手数料での収益増ではなく、有価証券の運用で稼ぐと割り切る方針の銀行もある。割り切った以上は、非常に高度な洗練された運用をしなくてはならない。実際、私の目から見て、このように「割り切っている」金融機関は、少数ながら存在している。これらの金融機関は、人員や投資の選択肢などが限られているという厳しい環境にも関わらず、バーゼル規制や金融商品会計などの制約をうまく考慮しながら、最もリスク・リターンのバランスが優れた投資を行おうと努力している。このように、自行の運用能力をブラッシュアップすることに加え、役務取引や融資の拡大、さらには、より顧客に対して真摯に寄り添うという経営姿勢を取ることが、いわば、正攻法のやり方だろう。もう1つは、経営統合により規模を拡大することだ。しかし、銀行再編、とくに地銀再編はなかなか進まない。大手行がここ20年間で様変わりしたのと比べて、地銀はここ20年間で数はほぼ変わっていない。

――地銀の多くは各県のいわば「殿様」だ…。


岡本 地銀が経営統合するのであれば、持株会社を設立する形が一般的となるが、そのケースでも必ずしも統合による規模の経済が働いているわけではない。単に経営を統合しただけで、銀行はそれぞれ別に存在している。融資も運用も、各行ごとに行わざるを得ない。これには業法の制約もある。銀行法の制約上、持株会社は経営管理の機能が中心になるため、傘下の銀行から資金を吸い上げて運用を共通化することは難しい。一方、複数の銀行から融資を受けてきた企業側にとって、それらの銀行が共通の持株会社の下にぶら下がれば、大口信用供与等規制などの観点から、与信のラインが絞られてしまうことになりかねない。このように、現時点で持株会社による経営統合のメリットはあまり見出しづらい。

――地銀は自己資本比率をいたずらに高くしすぎている…。


岡本 国内基準行は規制上4%に達していればよいが、8%が暗黙のルールになっているようなところは確かにある。ただ、これは行政が一概に悪いとは言えない。銀行業は横並びの業界であるため、地銀では隣の県の銀行に対する対抗心の様なものがある。ある程度は仕方ないと見ているが、規制上はあくまでも4%以上であればよいため、自己資本の25倍までリスクアセットを積み上げても悪くはない。しかしながら一方では、そうしたリスクを取れば金融庁がモニタリングし口を挟むという現実がある。

――金融庁が細かく口を挟むことで銀行経営は創意工夫が図りにくくなっている…。


岡本 銀行の自主管理をより打ち出してもよいと思っている。銀行業務は預金を受け入れる受信、貸出をする与信、為替業務など決済の3つに大別されるが、与信はノンバンクでも行われているうえ、決済は仮想通貨など業態が発展してきている。銀行の独占業務は受信しかなく、新たなビジネスの発展は乏しい。そしてこの状況は、金融行政の厳格化により、銀行の創意工夫が奪われた結果とも捉えられる。当局の立場からすれば、野放図にリスクを取れるようにしておくと、一部の欧州金融機関の様に過度なリスクを抱える可能性が懸念されるだろう。ただ、信用リスクアセットの計算は自由な銀行経営ができるよう、より簡素化してもよいのではないかと考えている。国際的な規制強化に従い、リスクアセットの計算方法もかなり細かくなる見込みで、バーゼル規制には最低自己資本比率規制を定める第1の柱と金融機関の自己管理に関する第2の柱、市場規律を確保するための第3の柱がある。第2の柱で金利リスクの規制を強化する流れがあるなか、第1の柱となる信用リスクアセットの計算はより負担を軽くしてもよいだろう。