同志の銀行の参加を募る

同志の銀行の参加を募る

フィンクロス・デジタル
代表取締役社長
伊東 眞幸 氏


聞き手 編集局長 島田一

――フィンクロス・デジタルの名前の由来は…。


伊東 今の時代、金融に関して様々な業界がクロス・オーバーしている。銀行も殻にこもらず、オープンイノベーションで色々な分野との関わりを持つ必要があるという考えから名前をつけた。当社はもともと、地銀の頭取を対象としたフィンテック勉強会が徐々にステップアップし、最終的に7行(池田泉州銀行、群馬銀行、山陰合同銀行、四国銀行、千葉興業銀行、筑波銀行、福井銀行)で、共同出資して設立した会社だ。目的は参加行のデジタル化を積極的に進めていくことだ。その際、いわゆるビッグデータの活用は極めて重要になる。地方銀行が保有するお客様のデータは地域的に見てもきれいに分散しており、ある意味メガバンクのデータより偏りが少なく、高度な分析が可能だといえる。一方で、地銀一行では規模の問題で対応できないこともあり、共同で取り組むことにした。当社に出資する地銀7行は「フィンクロス・パートナーズ」という「議論する場」をもっており、自行のデジタル化をどう進めていくかといった議論を定期的かつ頻繁に行っている。例えば、AIやRPAの導入、店舗のデジタル化さらにはUI(User Interface)/UX(User Experience)の向上といった課題について、優先順位をつけ、それを解決する具体的なサービスを当社が提供するという仕組みになっている。7行の出資金額は14.3%と平等であり、7行の意見がバランスよく反映される仕組みになっている。

――現在、一番優先順位の高い問題は…。


伊東 とりあえずはAIだ。トップラインを維持・向上させるためのAIとコスト面を少しでもセーブしていくためのAI、この二つをできれば来年3月までには開発・導入し、まずは参加7行で活用していきたい。例えば投資型商品を個人顧客に奨める際に活用できる、AI分析を取り入れたレコメンデーションツールは、既存のものより精度も高まりトップラインの確保につながると考えている。また、AIを上手に活用すれば現状人手や労力をかなりかけている内部事務の負担も軽減でき、コスト削減も期待できる。費用に関して言えば7行が共同してAIエンジンを開発・導入すればイニシャルコストは抑えられ、また、運用についても、クラウド上にシステムの共通基盤を作り、そこにAIのエンジンをのせ、各行がそこにアクセスするという利用法をとればランニングコストも低く抑えられ、各行が単独でAIを開発・導入するよりも、はるかにトータルのコストは抑えられる。

――AIの活用によってマンパワーはどのくらい減らすことが出来るのか…。


伊東 まだ本格的に要件定義を固めている段階ではないのできちんとした数字は言えないが、これまでに行ったPoC(Proof of Concept、概念実証)によれば、かなりの効果が出そうだ。今後、さらにいろいろなAIを作り、また、一度作ったAIが自ら進化を繰り返す中で相当の改善は期待できるだろう。世の中的にデジタル化の波が押し寄せているのは、否定しようのない事実であり、その流れは現在よりも、1年後、2年後のほうがさらに加速するのは間違いない。それに目をつぶって見ないふりをするのではなく、これが現実であると真正面から見据えて、むしろこうした危機を自行が成長・発展するチャンスとして前向きに捉えていこうと、ここに集まったのが7行だ。今後どういった成果が出せるかはやってみないとわからないが、とにかく積極的にチャレンジしていこうという前向きな意識は7行で共通している。

――その他、事務局として取り組もうと考えていることは…。


伊東 例えば、新人で未だマニュアルが頭の中に入っていない行員に対して、お客様対応をスムーズに行うためのAIシステムを開発したり、AIとRPAを組み合わせて事務フローのイノベーションを図るなどいろいろある。また、先述の個人向け商品のレコメンデーションは、基本的考え方は法人営業でも同様に活用できるものだし、対象とする投資型商品ひとつとっても投信を扱うのか保険、外貨を扱うのかでバリエーションは拡がる。そういったことをすべてやっていこうとしたら、かなりの年数は必要になるだろうし、本当に奥が深い世界だ。

――7行共同でAIを使ったマーケット運用を行う考えはないのか…。


伊東 AIの専門家に話を聞くと、AIにも得意不得意があるようで、不得意の最たるものがマーケット運用だという。もしAIを使ったあるモデルで成功したら、皆同じ手法を使うようになり、最終的には一人勝ちはできなくなるという事だ。

――最近はフィンテックなどベンチャー系でもいろいろなサービスが行われているが、こういった会社との関係性について…。


伊東 我々は基本的にはフィンテック企業と仲良くやっていきたいと考えている。メガバンクでは、自行の業務を合理化するためや、対顧客向けサービス充実の一環としてフィンテック企業との協力を積極的に進めているが、残念ながら地方銀行では、必ずしもそこまでは進んでいない。このような状況の中で重要なことは、自行に導入を働きかけてくるフィンテック・サービスの導入の是非を1つ1つYes Noで考えるのではなく、まずは自行の強みをきちんと整理・認識した上で、自行の戦略全体を俯瞰し、その強みをさらに強化するにはどのようなフィンテック・サービスを取り入れるのが良いのかを真剣に考え、優先順位をつけることだ。こうしたことを7行で共同して行っていくのも1つのやり方だ。

――現在、金融庁主導でAPI(Application Programming Interface)の利用が進められているが…。


伊東 APIはある意味「公共財」だと認識している。銀行はAPIをしっかりと整備しフィンテック企業がそれを積極的に活用することで、最終的には消費者の利便性を確実に向上させていかなければならない。こうした中、API基盤は極めて重要な意味をもつと考えるが、その際、重要なのは基盤を提供する主体は、自己の利益をあまり強く追求すべきではないということだ。顧客がフィンテック・サービスを使う毎に、銀行がチャージされるとすると、銀行としてはフィンテック企業へ送客するインセンティブが減じられるであろうし、また、長期的には、そうしたコストを支払うのは他でもない顧客自身となり、何のためのAPI開放かわからなくなってしまう。

――金融庁や今の金融制度に対して何か要望は…。


伊東 この会社の目的はデジタル化という切り口で銀行のイノベーションを進めていくことであり、その観点から言うと、今の金融庁には柔軟に対応していただいていると思っている。また、フィンテックに関しては、日本を先進的な制度を持つ国にしたいというのが金融庁の考えだと思う。現在、業態別に作られている法制度も今後大きくその体系を見直すと聞いているが、当社にとってもそのこと自体はフォローの風であると認識しており、今後とも当局とは密にコミュニケーションを取りながら、時代の流れを背景とした我々の意見・要望を伝えていきたい。

――最後に…。


伊東 当社は7行全てが平等に出資をし、また個別行の基幹系システムについても5行はNTTデータの地銀共同センター、1行は富士通、1行は日本IBMを使うといういわばベンダー色のない、銀行の集まりだ。したがって冒頭申し上げたような「同じような志」があれば、どのベンダーの基幹システムを使っているかに関係なく参加できる「真に開かれた集まり」であると考えている。御賛同いただける銀行があれば是非積極的にご参加いただきたい。(了)