インドネシア、日本に大きな期待

インドネシア、日本に大きな期待

駐インドネシア共和国特命全権大使
石井 正文 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本とインドネシアの友好関係についてうかがいたい…。


石井 今年は日本とインドネシアの国交60周年。スローガンは「ともに働き、ともに歩む」だ。役所的には「戦略的パートナー」というが、一方向に利益を追求するのではなく、共同して一緒に発展、協力していく双方向の関係を築いていく。両国は同じ問題に直面することが多く、具体例として地震が挙げられる。インドネシアでは、10年以上前にスマトラ島のアチェで、直近ではロンボク島やスラウェシ島で地震が起きた。スマトラ島の地震の際、日本は直後の支援だけではなく、避難所を作る、津波の高さにポールを立て、避難訓練を行うなどその後の対策も講じた。一方で、日本で起きた東日本大震災では、インドネシアの中高生からの温かいメッセージや物資供給など、物心両面で支援をうけた。最近のロンボク島やスラウェシ島での地震においては、現時点で日本も支援の調整を行なっている。

――経済的な関係性については…。


石井 インドネシアは、自国の発展のために投資が必要であり、輸出産業の発展、そのための人材育成を必要としている。この点において、日本はあらゆる側面で助けることができる。インドネシアの輸出額のうち20%が現地に進出している日本企業が作り出している。人材育成は個別企業ごとにも行なっており、投資額は日本が実質的に№1だ。また、日本企業は、日本国内マーケットには限界があるため、インドネシアに進出することで、今後の活路を見出している。労働賃金の水準を見ても東南アジアは安く、さらに輸出拠点とするためだ。これまではタイを中心に進出していたが、現在はベトナムを初め、国内マーケットが大きいインドネシアなどに企業の関心が向き始めている。インドネシアは、東南アジア、インド、中東、アフリカへの輸出拠点としての機能も地理条件上担い得るため、日本の産業から見ても重要な国である。そのため、将来に現地で優秀な人材を得るための投資として、現地人のスキルを上げるための人材育成に取り組んでいる。つまり経済関係においては両国がWin-Winな関係性を築くことができている。

――インドネシアの人々の日本に対するイメージは…。


石井 確かに中国企業などもインドネシアに投資を行っているが、日本への期待は彼らに対するものより大きい。日本は、東南アジアではブランドイメージが良く、個別日系企業においては、中国企業とは異なり現地の人材育成に対して投資を行うため、将来的に生じる経済的な波及効果への期待も高い。また、インドネシアでは、所得レベルが上がると日本食を食べるようになり、より一層日本の歌や文化にも触れる機会が増える。日本に接する機会が増えることで、日本に旅行したい、日本で勉強したいという声にもつながっている。しかしながら、ブランドイメージは競争である。最近は韓流ドラマや音楽などがインドネシアでも流行しており、安穏としていられない。

――60周年のイベントは…。


石井 1月20日の開会式には自民党・二階幹事長が参加し、歴史的な建物にプロジェクションマッピングを投影したほか大規模な音楽フェスティバルを開催するなど日本文化に触れる機会を作った。音楽フェスディバルでは、日本の有名な歌手を呼んでおり、たとえばKiroroさんの「未来へ」などが人気だった。他にも、「絆駅伝」が行われた。インドネシア人と日本人の4人でチームを作り10キロメートルを走るイベントで、1つの襷を日本人とインドネシア人でつないでいく。今年は私も含めて約1600人が参加した。日本人がチーム力を大切にするように、インドネシア人もチーム力を大切にしていることが改めて実感できた。こういったイベントの他に、「プロジェクト2045」を進めている。

――「プロジェクト2045」とは…。


石井 2045とはインドネシアが独立100周年を迎える年だ。有識者が集まり、今から27年後までにインドネシアと日本がどのように変化し、協力し合えるかを議論する場だ。本プロジェクトでは、3つの共通目標と10の課題がある。3つの共通目標のうちの1つは、国際社会において穏健でグローバルな勢力になること。インドネシアはアセアンの盟主で、既にG20にも入っており、現在GDPでは世界第16位である。国際的にさらに勢力のある国になってほしいと思っているし、日本も協力したいと思っている。インドネシアはイスラムが大多数であり、世界的にも穏健なイスラムを代表するような勢力になりたいと思っている。そのため、イスラム世界は中東だけではないことを世界に認識してもらうため、イスラム教を教えるための国際的な大学を作りたいと考えている。また日本と共同でパレスチナの支援もしているため、穏健である日本との活動は世界的にも印象づけられる。しかし、20年後の日本自体が、人口減少や高齢化がすすんでいるため、世界的に影響力のある勢力であり続けられるかは分からないという問題を抱えている。

――人口問題では補完しあえると…。


石井 両国が世界のトップ5のGDPになることが第2の目標だ。インドネシアのGDP成長率はこのところ5%台であり、このまま成長すれば2040年過ぎには中国、アメリカ、インドに次ぐ世界でトップ4になる。他方、これについては実は日本が問題であり、5番目に滑り込むとされているが、ブラジルの成長率トレンド次第では抜かれる可能性がある。このぎりぎりのところを両国で協力していこうと考えている。例えば日本は今後高齢化が進むが、インドネシアは比較的長く人口ボーナスを享受する中で人口そのものも多いため、インドネシアは日本へ労働力が提供できる。そして、第3にクオリティ・オブ・ライフを高めていくことも共通目標だ。持続可能な開発目標(SDGs)では2030年までの目標が定められているが、その目標をさらに超えた水準に到達するように高めていく。インドネシアのGDPは毎年5%ずつ成長している一方で、同時に500万人ずつ人口も増えている。成長率を高めることに加え、IT技術の活用により、地方で不足している医療や電力などの問題を解決することも必要だ。IT技術においては、日本が協力できるところであり、日本にとっても新しいビジネスの可能性を生み出すことができる機会である。

――アメリカの通商政策がインドネシアに及ぼす影響について…。


石井 アメリカと中国の貿易戦争がどのように影響するかはまだ定かではないため、少し様子を見たほうが良いと考えている。たとえば、双方の貿易摩擦が世界的に影響を及ぼした場合、インドネシアの経済は資源マーケットに頼っている側面もあるため、影響が出る可能性はある。しかしながら、アメリカと中国の貿易摩擦が長期化した場合、インドネシアにとってはプラスの効果をもたらすと考えることもできる。貿易摩擦の長期化により、中国に進出しているアメリカ企業が、インドネシアやタイを新たな投資の対象とする可能性があるからだ。今のルピアはレートだけを見れば1997年~1998年の通貨危機と同じような状況にあるが、政治的に民主主義であること、インドネシアの経済自体も安定してきており、当時の通貨危機を経験した人たちが当局の中心にいることから、個人的には危機感はあまり感じていない。ファンダメンタルズの観点でも、外貨準備は月々の輸入支払いと対外公的債務返済の半年以上分あり問題はなく、アメリカがFFレートを上げた際も、適切な金融政策をとっている。また、輸入規制も含めた通貨安対策が迅速に効果的に対応しており、世界的な危機がある場合を除き、インドネシアのマーケットが攻撃対象になる可能性は低いと見ている。米中の関係に関わらず日本とインドネシアの関係性に影響はない。両国間の関係は安定的であり、日本企業がインドネシアを輸出拠点とし、人材育成などの投資を行うことで、Win-Winの関係が築けているため、大きな変化はないだろう。

――両国間の将来について…。


石井 インドネシアと日本の関係はこれまでも良かったが、これからはさらに加速していくと考えている。日本とインドネシアの国交60周年のロゴマークがあるが、本デザインはインドネシア人の17歳の男子高校生が作成した。日本、インドネシア両国から募集をし、作者は伏せて投票したが、両国の審査員満場一致で本デザインに決定した。作者は、ジャカルタにも出てくることが困難な地方の若者だが、副賞として助成を受けて一週間日本へ行き、日本文化を体験した。将来、デザインの仕事に携わりたいといった目標ができたという。若者が良い関係を築き上げることは、将来の投資にもなる。国交60周年は、両国間の将来の関係を議論する非常に良い機会であり、さらに今後の関係性も明るいと確信している。