ビジネス環境が良い露に投資を

ビジネス環境が良い露に投資を

駐日ロシア連邦大使
M.Y.ガルージン 氏


聞き手 編集局長 島田一

――日本とロシア間のあるべき姿とは…。


ガルージン 最近の日露関係はダイナミックに進んでいる。それはプーチン大統領と安倍総理が日露関係のさらなる発展に向けて、信頼に基づいた首脳会談を定期的に行っているからだ。「幅広く包括的に日露関係を進めていく」という合意のもと、この6年間で24回もの会談を行っている。「包括的な日露関係」を築いていくためには両国間による安全保障、経済、国際問題解決のための協力をはじめ、文化、教育、スポーツなどの民間交流等々たくさんあるが、特に経済はその中でも重要な役割を果たし、日露関係の根幹をなすものだ。経済協力を積極的に進めることはすでに両首脳で合意しており、そのシグナルは両国の経済界まで伝わり、活発な動きを見せている。具体的には昨年5月にペテルブルク国際経済フォーラムで日露経済対話が行われ、日本側からはロシアNIS貿易会(ROTOBO)の村山滋会長、ロシア側からは日露ビジネスカウンシル議長でアールファーム株式会社のアレクセイ・レピック会長を筆頭に両国の経済界トップの人たちが集まって議論を進めた。両国首脳も出席して講演を行っている。続く9月にはウラジオストックで行われた東方経済フォーラムの場で日露経済フォーラムが開かれ、片山さつき地域創生大臣と寺沢経産審議官等、政府と経済界の代表の方が出席されて、露政府の経済部門高官や露ビジネス界の幹部トップの人物たちとの交流を図っている。その他にも10月末に露副首相兼極東地域全権代表のユーリ・トルトネフロシア氏が来日して日本のビジネス界の人と討論会を行ったり、11月に東京経団連において日露経済合同会議を開催するなど、活発な日露経済会議を重ねることで、日本のビジネス界の方々にロシアの経済状況や経済活動にかかわる法律体系、投資環境等色々な情報を直接知ることができる機会が大変多かったと思う。

――経済面においてロシアが日本に期待していることは…。


ガルージン 日本経済界の中でロシア市場に対する知名度が高くなっていくことだ。そのために我々はかなりの努力をしている。実際に、世銀によるビジネス環境ランキングでは一昨年の35位から昨年は31位まで順位を上げた。ちなみに日本は昨年39位だ。今のロシア市場は30年前のロシア市場とは全く違う。もはやロシアで投資環境が良くないという議論はなりたたない。さらに言えば、今、LNGというエネルギー資源の需要が大きくなっているが、日本のLNGの約1割はロシアからきているものだ。2009年2月、日露経済合同プロジェクトとしてアジア最大級のLNG工場を建設し、それから10年間、我々は一度たりともエネルギー資源の流れを中断させていない。これはロシアが信頼できるエネルギー資源の供給国だということを証明している。もちろん、ビジネス環境ランキングで31位になったことを過剰評価している訳ではなく、まだまだロシア内に様々な問題があることは承知している。そういったことを踏まえながら、我々はランキングのトップクラス内に入ることを目指してこれからも努力を続けていくつもりだ。

――日露間での経済関係をもっと深めていくためには…。


ガルージン 日露間での貿易高は最近増加し昨年は180億ドルに達したが、10年前の300億ドルに比べると少ない。日露間の経済関係をさらに深めるために必要なことは、日露経済協力のポテンシャルをもっと活用することだ。例えば、ロシアの天然資源開発に対する日本の投資拡大ということを考えれば、ロシア北極地帯での天然ガス開発プロジェクトがある。ヤマル半島やバルチック海浴岸地域でのプロジェクトにはすでにいくつかの日本企業が必要な設備を提供したり輸送サービスを担うという形で参加しているが、投資参加はない。そこに投資が入れば露のLNG生産はさらに拡大していくだろう。そして、欧州とアジアを結ぶ最短回路である北極海路を通じて日本を含むアジア各国にLNGが運ばれていく。是非そういったプロジェクトに日本企業に参加してもらいたい。それが日露経済、貿易、全てを含めて両国関係全体の利益に寄与していくことになるだろう。

――そういった計画への参加を阻む背景には、ロシアの法律が頻繁に変わるため安心して投資出来ないという日本側の声を聞くことも多いが…。


ガルージン 日本の大手自動車会社は10年以上前からロシアに工場を置き、プロダクションチェーンも作っている。法律が頻繁に変わるという議論は10年前の話であり、そういった惰性的な考えを我々は何とかして克服しなければならないと感じている。また、領土問題が日露関係の発展を阻んでいるという考えについては、我々としては日本側からそうではないと聞いているし、ロシア側としてもそれが経済協力の障害になってほしくはない。むしろ幅広い交流を進めて新しい日露関係の環境を作り上げることで、領土問題や平和条約問題といった難しい問題も解決しやすくなるのではないか。昨年11月シンガポールで行われた日露首脳会談の際、両首脳は「1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速すること」で合意した。加速するためにも良い環境が必要であり、そのための重要な一環として経済協力は欠かせないものだ。

――日本は米国の意向に左右されることが大きい。ロシアから見た米国と中国について…。


ガルージン 米国が日本とロシアの関係を阻んでいることは間違いない。米国は一方的にロシアや中国に経済制裁を発動させる。それがアメリカのやり方であり、我々はそれを厳しく批判している。また、米国や欧州からは中国を覇権主義だと敵対視する動きもあるようだが、私は中国が覇権主義政策をとっているとは思わない。むしろ自分が好ましくない国の内政に武力行使も含めて干渉している欧米の方が覇権主義であることは明らかだ。中国は我々の良き隣人でありパートナーだ。約4000kmもの国境を共にしているが一度も中国が覇権主義政策を行っているところを見たことはない。中国とロシアの間には防衛政策に関する協議も行われており、透明性を保ちながら共同軍事演習も行っているし、国境からお互い数百mの地点まで大きな軍隊を引き揚げるという合意もあり、中国に対して脅威を覚えたことはない。さらに言えば、我々は中国の一帯一路とロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザスフタン、キルギスによるユーラシア経済連合を結びつけてシナジー効果を図るという構想も打ち出している。これは2015年にプーチン大統領が提唱している大ユーラシアパートナーシップ構想の重要な一環になると考えている。

――核を保有していると言われている朝鮮半島情勢をロシアはどう見ているのか…。


ガルージン 確かに朝鮮半島を取り巻く諸問題は大変難しい。もちろん北朝鮮の核武装化はロシアにとって受け入れられるものではない。だからこそロシアは国連が北朝鮮に対して行った制裁にも参加している。同時にこの1年間で朝鮮半島をめぐって見られるようになった米朝首脳会談や南北対話の実現、安全保障上の状況の緩和といった動きを歓迎している。それらはロシアと中国が朝鮮半島問題のために提示したロードマップの通りだ。しかし、この先どうすべきかという点で、北朝鮮が非核化に向けた措置をとった今、国連の制裁は徐々に解除すべきというのがロシアの意見だ。そうでなければ、妥協の精神という外交の基本的原則が機能しなくなる。最終的には交渉当事者である米朝韓との間に非核化に対する合意が出来て、そのうえで、北東アジアにおける安定した平和の維持のために、ロシアや日本などが参加できるような多国間的枠組みが必要になるのではないかと考えている。

――世界平和に向けて日露両国が協力してやるべきことは…。


ガルージン ロシアはアジア地域の安定や世界平和のために積極的に協力をしたい。例えば、今後のエネルギー安全保障という面では、先述のようにロシアが供給するエネルギー資源を日本の投資で開発し、日本をはじめ各国輸入先の多様化に努める事ができるだろう。また、テロ対策という面では、すでに数年間にわたって日露そして国連の麻薬犯罪対策局でタッグを組み、アフガニスタンと隣国にある中央アジア各国のための麻薬取締役官の育成を行っており、昨年12月には探知犬の育成施設を作るという合意にも至った。その他にも中東問題の解決や情報安全保障など、日露両国が有意義に、効果的に協力できる国際問題は多い。お互いに国際問題の解決のために協力していきながら信頼を深め、日本とロシアの関係がさらに良いものになっていくことを願っている。(了)